モルヒネ誘発性疼痛はN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体の関与が考えられている。しかし、NMDA受容体の活性化メカニズムについては明らかにされていない。DセリンはNMDA受容体グリシン結合部位の内在性リガンドとしてNMDA受容体活性を調節する。申請者らはモルヒネの数倍の鎮痛効果を有するシアロルフィンがラット唾液腺より分泌され、ペプチド分解酵素阻害活性により内因性オピオイドペプチドの分解を阻害すること、ならびにシアロルフィンがミューオピオイド受容体のアロステリックモジュレーターとして機能して鎮痛効果を示すことを明らかにした。これらの結果より、ミューオピオイド受容体のアロステリックモジュレーターとして機能するシアロルフィン分泌、ミュー受容体活性、Dセリンに注目し、唾液腺内Dアミノ酸解析を行った。HPLCアミノ酸一斉分析により7週齢Wistar系雄性ラット耳下腺、顎下腺、舌下腺にD-セリンをはじめとする複数のD-アミノ酸が存在することを明らかにした。さらにDセリンの合成酵素(セリンラセマーゼ)、同アミノ酸分解酵素(Dアミノ酸酸化酵素)がラット顎下腺内に存在することを明らかにした。D-セリンをL-グルタミン酸とともにラット顎下腺に灌流すると副交感神経刺激下の唾液分泌量がD-セリン用量依存的に増加した。唾液腺マイクロダイアリシス法により唾液腺細胞間隙液にDセリン、Dアラニンが比較的高濃度に存在すること、Dアスパラギン酸は検出されないこと、など昨年度の研究結果を確認した。また、D-セリンをラット顎下線にマイクロダイアリシスプローブを介して局所投与することで唾液腺内副交感神経末端からアセチルコリンを遊離することを明らかにした。以上の結果より、液腺内で生成される内因性D-セリンが唾液腺に直接作用し、唾液腺由来シアロルフィン分泌を介して疼痛調節など関与する可能性が考えられた。
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