研究課題/領域番号 |
21K08967
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森 厚詞 名古屋大学, 医学系研究科, 特任講師 (80771980)
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研究分担者 |
光本 泰秀 北陸大学, 薬学部, 教授 (60166064)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 術後せん妄 / 睡眠障害 / REM断眠ストレス / 神経伝達物質濃度 / 疾患モデルマウス |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、非臨床レベルにおいて、全身麻酔下で開腹手術(麻酔+開腹手術)した若齢ICR系雄性マウスが、手術4時間後に、せん妄症状に特徴的な注意力障害や認知機能異常様の行動変化を示すことを見出している。本研究では、この「麻酔+開腹手術」処置マウスをPODモデルと位置づけ、その特徴づけからPOD病態生理の解明を試みる。さらに、マウスへの「麻酔+開腹手術」処置前後に、せん妄促進因子として挙げられる睡眠障害を誘発するRapid eye movement (REM) 断眠ストレスを負荷し、せん妄様症状と神経伝達の増悪の有無を評価することから、せん妄と睡眠障害の因果関係を明らかにする。 本年度、「POD病態生理解明」に関しては、脳組織中アセチルコリン含量の測定系構築を行った。これまで、マウス脳組織は、安楽死させた後に氷冷下で解剖操作し、採取していた。しかしながら、この方法では作業過程でアセチルコリンが分解を受け、高速液体クロマトグラフィーによる検出が不可能であった。そこで、安楽死後のマウスにマイクロウェーブ照射する工程を追加し、分解酵素を含む蛋白を変性処理することにした。その結果、文献に示されるレベルのアセチルコリン濃度を検出できるようになり、測定系を構築できた。現在、この追加工程がモノアミン含量測定結果に影響するか否かについて検討している。「せん妄と睡眠障害の因果関係解明」に関しては、ICRと、共同研究者がREM断眠ストレスモデル作製に用いているC57BL/6Nマウスとの間に、モノアミン代謝の違いがあるかどうかを検討した。その結果、それぞれの系統の無処置同士、「麻酔+開腹手術」処置同士の比較において、前頭皮質および海馬のモノアミン含量に顕著な違いは認められなかった。現在は、「麻酔+開腹手術」処置後のマウスの行動変化について系統差の有無を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に、「せん妄と睡眠障害の因果関係解明」に関する試験の準備を行った。REM断眠ストレスマウスモデルの作製手技を持つ共同研究者と綿密に情報共有しながら、マウス系統差に関する予備検討や本試験プロトコールの作成作業を行なってきた。 当初の計画通り、次年度始めから本試験を開始できる状態となっている。一方、「POD病態生理の解明」については、脳組織中モノアミン代謝の解析に引き続き、脳組織中アセチルコリン含量の測定に取組んだ。組織採取方法から高速液体クロマトグラフィーによる分析までの一連の測定系を構築した。測定のバリデーション試験を行った後、マウス脳サンプルの解析を行う予定であり、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
「POD病態生理の解明」に関しては、現在、マウス安楽死後マイクロウェーブ照射処置の有無が脳組織中モノアミン含量測定結果に及ぼす影響について検討している。検討終了後に、PODモデルマウス脳組織中アセチルコリン含量の測定を行う。モノアミン含量の測定結果とアセチルコリン含量の測定結果から、PODモデルマウスに観察される神経伝達変化を正常化させるような作用を有する薬剤を選択し、投与する。行動解析と神経化学的解析を行い、治療効果の有無を評価する。 「せん妄と睡眠障害の因果関係解明」に関しては、REM断眠ストレス負荷後に開腹手術を行い、その4時間および24時間後の自発運動量の測定を行う。無処置マウスと比べ、自発運動量に有意な差が見られないタイムポイントにおいてPOD様行動変化に関する評価と脳組織中神経伝達物質濃度測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、概ね当初の実験計画に沿って研究を進めることができたので、消耗品等は予定額に近い金額を使用した。しかし、情報収集のための学会出張に参加しなかったことで旅費の発生がなかったことなどもあり、次年度使用額が発生した。今後の研究推進方針に則って研究を行うことにより、交付額相当の経費が必要となる。
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