我々はこれまでに、非臨床レベルにおいて、全身麻酔下で開腹手術(麻酔+開腹手術)した若齢マウスが、手術4時間後に、せん妄症状に特徴的な注意力障害や認知機能異常様の行動変化を示すことを見出している。本研究では、この「麻酔+開腹手術」処置マウスをPODモデルと位置づけ、その特徴づけからPOD病態生理の解明を試みる。さらに、マウスへの「麻酔+開腹手術」処置前後に、せん妄促進因子として挙げられる睡眠障害を誘発するRapid eye movement (REM) 断眠ストレスを負荷し、せん妄様症状と神経伝達の増悪の有無を評価することから、せん妄と睡眠障害の因果関係を明らかにする。 本年度は、REM断眠ストレス負荷後に全身麻酔下で開腹手術(「ストレス+麻酔+開腹手術」)したC57BL/6Nマウスの手術4時間後に採取した前頭皮質と海馬組織サンプルの高速液体クロマトグラフィーによるアセチルコリン含量とモノアミン代謝の測定を行った。その結果、REMSD群やストレス+麻酔+開腹手術群のアセチルコリン含量は無処置群との間に有意な差は認められなかった。一方、海馬モノアミン代謝解析においては、無処置群に比べ、REMSD群でセロトニン代謝回転率の有意な上昇が見られ、ストレス+麻酔+開腹手術群ではREMSD群よりも代謝回転率がさらに有意に上昇した。先の実験結果において、麻酔+開腹手術によりセロトニン代謝回転率が有意に上昇することを確認しており、本年度の結果と合わせて、マウスにおけるPOD様症状発現にはセロトニン伝達変化が関与すること、またREMSDのようなストレスがそのセロトニン伝達変化を助長することが示唆された。
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