研究課題/領域番号 |
21K08971
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
河野 崇 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 教授 (40380076)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経障害性痛 / 痛覚過敏 |
研究実績の概要 |
1) 高齢ラット神経害性痛モデルの確立: 代表的な神経障害性痛モデルであるSpinal nerve ligation (SNL) modelを高齢ラットに応用した。 傍脊椎解剖の加齢変化に応じた手術操作により、筋肉、骨への侵襲は若年動物と同一とすることが可能であった。手術後に生じる痛覚過敏は針試験を用いて、針刺激後の痛覚過敏行動の発生頻度(%)の発生頻度を指標とすることで評価した。評価は手術前、手術後3、7、14、21日目に行った。その結果、手術後7-21目において若年ラットと比較して高齢ラットで有意に痛覚過敏行動の発生頻度が増加した。このことから、高齢ラットは神経障害性痛が慢性化しやすい可能性が示唆された。同時に行ったオープンフィールド試験と用いた不安測定においても高齢ラットで不安スコアが高かった。さらに、術後の体重減少も高齢ラットで有意に大きかった。これらの結果から、高齢動物は慢性痛の随伴症状発生リスクも高まることが示唆された。 2) in vivo single fiber recordingでの解析 最終の痛覚行動試験の後、麻酔下に脊髄神経を剥離し中枢側を切断後、単一神経線維を分離した。過去の報告に従い、記録する神経線維に2本の白金電極を接触させ、一方から神経刺激装置を用いてパルス刺激を与えることにより、単一神経線維の種類 (Aδ、Aβ、C繊維) を同定した。若年、高齢ラットともに記録された一次知覚神経はC線維の頻度が最も高かった (若年ラット群: 58.9%、高齢ラット群: 60.1%)。また、SNL手術後に確認される末梢性感作変化 (自発活動線維の増加、侵害刺激応答の亢進)は、若年ラット群と高齢ラット群間で有意な変化は認めなかった。このことは加齢による痛みの慢性化機序は末梢性というよりも中枢性機序が優位に関連していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、高齢動物における慢性痛と関連する神経認知障害の共通した病態機序としての脳内神経炎症の役割を明らかとすることにより、脳内神経炎症を標的とした安全で有効な高齢者慢性痛の治療開発の可能性を検討することを最終的な目的とする。 今年度までに高齢ラットの神経障害性痛モデルの手術手技および疼痛評価法を確立することができた。このモデルを用いて加齢による痛みの慢性化現象が再現できた。さらに、その機序として、痛みの末梢性というよりも中枢性機序がその現象に関連していることを明らかとすることができた。これまでの成果はおおむね計画通りといえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、加齢による痛みの慢性化機序の詳細を検討する。特に、本研究課題の柱である脳内神経炎症の役割について検討する。 SNL or Sham手術21日目、疼痛試験、認知試験後に脳の各部位 (海馬、前頭前野、扁桃体、etc.) を摘出し、炎症性サイトカインのmRNA発現量をRT-PCR法で、蛋白量をELISA法で評価する。痛みや他の行動異常と炎症反応の相関性を検討する。 また、脳内神経炎症を標的とした治療法が高齢慢性痛に有効かどうかを検討する。まず、現在臨床使用されている各種鎮痛薬 (プレガバリン、抗うつ薬、オピオイド、など) が高齢慢性痛モデルラットの疼痛行動、神経認知行動、およびミクログリア活性/脳内神経炎症に及ぼす影響を検討する。次に、抗脳内炎症作用が有する薬剤 (ORY-2001、Vorinostat、anti-HMGB1 mAb、 etc.) および自発運動の効果についても同様に検討する。各種薬剤の投与方法は文献的に検討する。高齢ラット慢性痛行動に及ぼす各種薬剤・介入の脳内神経炎症作用を臨床使用レベルで比較検討することで結果を総括する。最終的に、高齢者の慢性痛に適した鎮痛方法 (抗脳内神経炎症作用で痛みと神経認知異常の両方に有効) を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年と同様に炎症性サイトカイン等の蛋白レベル測定キットの手配に遅延が生じたために次年度使用額が生じた。これらの測定には、測定部位の組織(脳各部位)に対応した高い精度と正確性が求められるため、海外からの輸入となった。一方、サンプルの取得は予定どおりに進んでおり冷凍保存されており、抗体等のキットがそろいしだい解析を開始する予定である。
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