研究課題/領域番号 |
21K08984
|
研究機関 | 熊本保健科学大学 |
研究代表者 |
野中 喜久 熊本保健科学大学, 保健科学部, 准教授 (70259745)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | NMDA受容体 / 全身麻酔薬 / シナプス |
研究実績の概要 |
キセノン(Xe)の全身麻酔作用は、他の揮発性麻酔薬よりも麻酔の導入と覚醒が速いのが特徴で、他の全身麻酔薬の使用がためらわれる高齢者や妊婦などに対して有用な副作用の少ない理想の麻酔薬である。これまでの研究でXe作用は興奮性グルタミン酸(Glu)のシナプス伝達を、シナプス前神経終末部で強く抑制する効果が証明されている。しかし、その抑制はGlu受容体のサブタイプAMPAとKA受容体の2種類について報告されたものである。 もう1種類のサブタイプであるNMDA受容体は麻酔や鎮痛作用に関与するとされているが、NMDA受容体を介する応答の記録技術の困難さから詳細な報告はない。本研究では痛み(特に内臓痛覚)を上位中枢へ伝導する求心性第2次知覚神経細胞の脊髄背側交連核(SDCN)神経細胞のシナプス・ブートン標本を用い、シナプス内NMDA受容体のみを介する自発性と活動電位依存性のシナプス後電流(sEPSCNMDA、eEPSCNMDA)を記録し、これを指標にXeの麻酔作用機序を明らかにする。 これまでは生後10~18日齢ラットの脊髄スライス標本からSDCN細胞のシナプス・ブートン標本を作製し、AMPAやKA受容体を薬理学的に阻害して自発性ならびに活動電位依存性のNMDA受容体応答(sEPSCNMDAとeEPSCNMDA)を記録し、その電流成分を構成する電流Kineticsを詳細に解析してきた。今後はsEPSCNMDAについて発生頻度や電流振幅、eEPSCNMDAについて電流振幅、paired-pulse比(PPR)、発生失敗率(Rr)へのXe作用を検討する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SDCNニューロンは海馬CA3ニューロンに比べて細胞のサイズが小さく、単離される細胞数も少ないことから苦戦したが、ようやく自発性と活動電位で惹起されるシナプス内NMDA受容体応答のみ(sEPSCNMDAとeEPSCNMDA)を正確に記録できるようになり、AMPA/KAとNMDA受容体サブタイプの電流Kineticsとの違いを明らかにした。よって今後は自発性ならびに活動電位依存性シナプス内NMDA受容体電流成分へのXe効果について検討を開始する。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは安定したシナプス内NMDA受容体応答(sEPSCNMDAとeEPSCNMDA)の記録が出来るようになり、これらの電流Kinetics成分を解析することが出来た。したがって今後のsEPSCNMDAやeEPSCNMDAへのXe作用研究の遂行が大いに期待される。科研費を用いてマニピュレータも購入したことからこれまで以上に実験環境は整い研究促進が出来た。 シナプス内NMDA受容体は、鎮痛だけでなく、記憶や学習にも重要な働きを有すると言われており、Xe効果のみならず同じガス麻酔薬である笑気ガス(N2O)効果も検討して、両ガス麻酔薬の力価や作用機序の比較をしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた薬品用冷蔵庫の選定および納品が遅れ、研究に必要な薬品(主にAMPA/KA受容体のアンタゴニスト)の購入も遅くなった。また予定していたキセノンガスが受注生産のため納品まで3ヵ月以上かかるなど、予算通りの支出が出来なかった。
|