研究成果の概要: 以前より、睡眠の量や質の改善は、痛みの緩和に有効であるという報告はなされている。動物においても、睡眠不足が痛覚過敏に関係しているという報告や睡眠障害と痛覚の関係についての報告もなされている。しかし痛みは自覚症状によるものであり、検査結果は被験者の自覚症状を表したものが大半で客観的な数字で表した痛みについての報告はほとんどなかった。そこで、中等度から重症睡眠時無呼吸症(OSA: Obstructive Sleep Apnea以下、「OSA」とする。)に対し、標準治療として用いられている持続陽圧呼吸療法(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure以下「CPAP」とする。)または、口腔内装置(マウスピース:Oral Appliance 以下「OA」と示す。)を用いた睡眠治療によるOSAの改善が、皮膚電気知覚過敏性の緩和(痛覚過敏の緩和)に影響すると仮定し、痛み測定器である医療機器ペインビジョンPS―2100(ニプロ株式会社、大阪)を用いて、睡眠治療導入後に皮膚電流知覚閾値に有意な変化が認められるか比較研究を行った。中等度から重症OSA患者の内、睡眠治療前後の皮膚電流知覚閾値検査を実施した13症例を集計した。これをOSAの改善が認められたコンプライアンス良好7症例とコンプライアンス不良であった6症例の2群に分け解析を行った。 結果、当初の仮定と異なり、コンプライアンス良好群は、治療により知覚閾値が低下(知覚過敏性が向上)を示し、コンプライアンス不良群においては、知覚閾値が高くなる(鈍麻する)傾向を示した。治療前後の閾値の変化量は、Willcoxon 順位和検定での有意差は認めなかったが、効果量は中程度を示していた。 OSAは、知覚過敏性を鈍麻させ、OSAに対する睡眠治療は知覚過敏性を高める可能性が示唆された。
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