研究課題/領域番号 |
21K09000
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
末廣 浩一 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (10735806)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 人工心肺 / 水素 / 超低体温循環停止法 / 胸部大動脈瘤 |
研究実績の概要 |
胸腹部大動脈瘤に対しては人工心肺を用いた外科的手術もしくはステントを用いた血管内治療が施行される。特に弓部大動脈瘤の手術では、腕頭動脈、左総頚動脈、左鎖骨下動脈といった脳血流の維持に重要な血管の再建が必要であり、血行再建中にいかに脳虚血を予防するかが重要となる。人工心肺後の周術期脳障害は,軽度の局所神経症状や記憶障害,低酸素脳症による昏睡を呈する重篤なものまで,その病態は多種多様である。超低体温循環停止法(DHCA)は、人工心肺下に脳温を18~20℃まで低下させ循環停止を行い、脳障害の予防を行う方法である。近年、DHCAを単独で行う事は少なく、選択的順行性脳灌流法、逆行性脳灌流法などの方法を組み合わせて脳保護を行う。しかしこれらの方法を行っても術後脳障害の発生率は、人工心肺を用いる大血管手術では4.7-11.2%と報告されており、冠動脈バイパス術での発生率(1.6-3.2%)と比較しても、きわめて高いものである。心臓血管手術後に脳障害を発症すると周術期死亡率は6-8倍に増加し、10年の長期経過においても脳障害を生じなかった症例と比較し、死亡のリスクが3倍に高まる。周術期脳障害を発症すると、日常生活の質を低下させ社会的、経済的損失をもたらすため、大血管手術における周術期脳障害に対する適正な介入が重要である。 本研究の目的は、DHCAモデルラットを用いて水素ガス吸入による脳障害予防効果を検討する事である。本研究によりDHCA後の脳虚血再灌流障害に対する水素ガス吸入の予防効果を示す事ができれば、将来的に人体への適用も期待され、胸部大動脈手術における脳虚血による神経障害予防の一助となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラットの人工心肺モデルの確立とマイクロダイアライシスを並行して施行することに苦慮している。ラットの人工心肺については、全身麻酔導入・気管切開後に、右内頚静脈に脱血管として18G留置針外筒、右総頚動脈に送血管として1.1mmポリエチレンチューブを挿入し、膜面積0.03m2のラット用人工肺と血液ポンプ回路に乳酸リンゲル液を充填し、人工心肺回路として使用した。ラットの人工心肺モデルの確立には成功したが、人工心肺で有効な脱血を得るためには仰臥位で実験を行う必要がある。このためマイクロダイアライシスを並行して行うことが困難である。今後マイクロダイアライシスに最も有効な体位である腹臥位でも有効な脱血量を得られるように、より太い脱血管の留置などを試行していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まずはラットの人工心肺モデルの確立とマイクロダイアライシスを並行して施行することを目標とする。もしマイクロダイアライシスの同時並行が困難であれば、脳血流計による海馬などの血流の計測などを行い、DHCAにおける水素の脳保護効果について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験が予定より少し遅れており、必要な物品購入費用が予想より少なかった。 次年度に繰り越し、引き続き物品購入費用にあてる予定である。
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