大規模自然災害においてDMAT、DPAT、日赤救護班、JMAT、Peace Winds Japan、AMAT、TMAT等の医療救護班がJ-SPEED診療日報を用いて報告した診療実績データの解析を行った。西日本豪雨(2018年)において収集されたJ-SPEEDデータを用いてメンタルヘルス支援ニーズを有する被災傷病者の割合の推移を分析したところ、同割合は発災直後の高値からいったんは減少するものの、災害医療チームが撤収し始める亜急性期に入ると一転して増加していた。この結果は、災害医療チーム等の支援者が撤収する時期に避難者がさらされる災害ストレスに対するメンタルヘルス面での支援及びその引継ぎの重要性を示唆している。モザンビークサイクロン災害(2019年)ではJ-SPEEDをもとに開発されたWHO国際標準Emergency Medical Team Minimum Data Set (MDS)診療日報によって収集されたデータを解析し、傷病と災害との関連性を評価した。MDS診療日報では災害との関連性は傷病者の診療にあたった各国災害医療チームの医師によって直接的・間接的・関連なしの3つに分類して評価されている。解析の結果、災害と直接的な関連がある患者の割合は報告開始翌週には6.1%から2.4%まで低下していた。災害によって起きた環境変化に伴う間接的な傷病による受診患者の割合は、5週間をかけて25.1%から2.3%まで低下していた。そして災害と関連のない傷病による受診患者の割合は当初の68.7%から6週間後に98.0%まで上昇していた。このような割合推移の傾向は熊本地震(2016年)西日本豪雨(2018年)熊本豪雨(2020年)等でも確認され、同割合推移を参照することで災害医療チームの撤収判断など、データに基づく災害医療調整を実現することが可能になると考えられた。
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