研究課題/領域番号 |
21K09028
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
高野 博充 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (70410313)
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研究分担者 |
服部 友紀 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (90363936)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ARDS / 肺動脈 / EDHF / 循環 / 内皮依存性弛緩 |
研究実績の概要 |
肺スライス標本作成方法を以下のように確立した。麻酔ご脱血したラットを開胸して気管に挿入したカニューレから37度のゼラチン溶液を注入後、20度以下に冷却した。ゼラチン硬化確認後摘出した肺を冷却クレブス液中でスライスして厚さ500μmの標本を作成した。このスライス標本を36℃のクレブス液で灌流することでゼラチンを洗い流した後、血管直径測定システムを用いて、この断面に見える脈管の直径を測定することができるようになった。次に敗血症モデルラットをラット微静脈からグラム陰性菌リポ多糖類(LPS)を5mg/Kg静注することにより作成し、LPS投与前(control)、翌日(DAY1)、三日後(DAY3)および六日後(DAY6)に肺スライス標本を作製して直径300 - 500μmの肺動脈の血管反応を観察した。全群で1μMのαアゴニストphenylephrine(phe)は持続的な収縮を起こしたが、LPS投与群ではこの収縮は有意に減弱していた。phe収縮中、1μMアセチルコリン(ACh)を投与すると弛緩が生じたが、DAY1では減弱していた。これらの弛緩反応は内皮除去すると観察されなくなった。Controlでは10μMのNO合成酵素阻害剤nitro-L arginine(LNA)存在下によりこのACh弛緩は抑制され、一過性弛緩に転じた。DAY3ではこのLNA非感受性弛緩反応は増大し、intermediate conductance Ca2+ activated K+チャネルブロッカーTRAM-34(1 μM)によりほとんど抑制された。以上の結果から、肺動脈の収縮はLPSにより抑制されること、内皮からのNOによる弛緩反応がLPS暴露翌日には抑制されるが以後回復すること、内皮依存性過分極による弛緩反応がLPS暴露後三日後に増強することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
収縮実験とともに肺動脈の膜電位測定の方法を確立する予定であったが、安定的な内皮依存性過分極反応の測定に至っていない。体循環系と異なり肺動脈は生体内で酸素分圧の低い環境にあり、酸素濃度の違いによって生理機能が正常に観察できていないと考えられる。当初使用を予定していた灌流液には分圧95%酸素を含む混合ガスを通気して使用しており、これが肺動脈の生理機能に影響を与えている可能性は示唆されている。現在の実験系は外気に対して開放されているため、大気中の酸素からの酸素供給も問題になると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度では肺動脈の弛緩能力についてLPSによる影響を観測することができた。次年度は肺動脈の膜電位測定により、敗血症による内皮依存性過分極成分への影響を直接観察できるようにすることを目標とする。肺動脈の酸素濃度への影響を除去するため、灌流液貯蔵タンクから実験漕までを密閉し、実験系に大気の酸素が流れ込みにくくなるような工夫を施す。また、混合ガスを通気する必要のあるクレブス溶液の代わりにHEPES緩衝液を灌流液として採用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
膜電位測定によるLPS投与モデル動物実験が膜電位測定システムの不備の発覚によりそのままでは遂行できないことが分かったため、モデル動物の実験を延期した。システムの改修の完了次第計画を再開する予定である。
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