背景:近年、心停止患者の蘇生に体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた蘇生、ECPR戦略が注目されている。現在、ECPR後の転帰を改善する薬物治療は存在しない。本研究では、オミクス解析を用いて検討を行った。 方法:心停止モデル動物を作成し、ECPRで蘇生させ、プラセボまたはH2ガス治療群にランダムに割り当てた。ECMO膜および機械的換気を通じてO2とともに試験ガスを投与した。生存時間、脳波(EEG)、脳機能、脳組織酸素化を測定し、Syndecan-1(内皮損傷のマーカー)、サイトカイン、ケモカイン、血漿代謝物のレベルの変化をオミクス解析から評価した。 結果:H2群の4時間生存率は77.8%であり、プラセボ群は22.2%であった。Kaplan-Meier分析によると、H2は4時間生存エンドポイントを有意に改善した(対プラセボでlog-rank P = 0.025)。H2治療を受けたすべての個体でEEG活動が回復したが、プラセボ治療を受けた全ての個体ではその効果を認めなかった。H2治療は、蘇生中の脳組織酸素化を顕著に改善し、ECPR後の中心静脈圧の上昇を抑制した。H2は、Syndecan-1レベルの増加を抑制し、インターロイキン-10、血管内皮成長因子、レプチンレベルの増加を強化した。さらに、オミクス解析による代謝物分析では、ECPR後2時間で両群間にd-グルタミンおよびd-グルタミン酸代謝における有意な変化を同定することができた。 結論:H2治療は、ECPRで蘇生した心停止動物の死亡率を改善し、脳電気活動を回復させた。この機序の1つとして、内皮損傷に対する保護効果が考えられる。さらに、オミクス解析より新規治療ターゲットとなりうる代謝経路を見出すことができたため、今後詳細な検討を行っていきたい。
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