研究課題
本年度は、モノクロタリン誘起肺高血圧モデル(MCT)について検討した。モノクロタリン60mg/kg皮下注後21日後に検討した。対照群に比し、MCTでは、右心室収縮期圧が高く, 平均肺動脈圧が高く(40mmHg vs。18mmHg)、心拍出量、大動脈圧に差を認めず、右心室肥大を認めた。肺組織でのATOH8の発現を、ホモゲナイズした全肺組織に対するPCRで検討したところ、MCT肺高血圧ラットでは、対象群に比し、有意な低下を認めた。肺高血圧では、ATOH8の発現が低下していると予測したが、MCT肺高血圧ラットでは、mRNAレベルでの低下が確認できた。ATOH8(human atonal homolog 6, Hath6と同義)は、内皮選択的ずり応力反応転写因子であり、bone morphogenetic protein(BMP)で誘導される転写因子である。BMPの受容体(BMPR2)変異は、肺高血圧に伴う場合があるため、BMPの作用が低下していれば、ATOH8の発現も低下することが予想される。つまり、BMPの肺高血圧に対する影響は、ATOH8の発現を介する可能性がある。我々はこれまで、ATOH8欠損マウスでは、慢性低酸素暴露による肺高血圧の発症が増強することを報告した(Science Signaling 2019)。このことから、ATOH8の発現低下が肺高血圧発症もしくは増強に関与すると推測される。今年度は、マウスにおける低酸素暴露による肺高血圧に加えて、ラットにおけるモノクロ手リン誘起肺高血圧においても、ATOH8が関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
前年度にSuHxモデルではATHO8の発現に変化ないことを見出したが、本年は、別の肺高血圧モデル(モノクロタリン誘起肺高血圧モデル)では、ATOH8の発現が低下することを見出した。
本課題では、4つの実験的肺高血圧ラットモデル(慢性低酸素肺高血圧ラット、炎症性肺高血圧モデルであるモノクロタリン肺高血圧ラット、内膜増殖モデルであるSugen/hypoxiaラットおよびBMP2R遺伝子改変ラット)を用いて、①正常肺および肺高血圧における肺血管内皮細胞および血管平滑筋細胞におけるATOH8の局在・発現量変化を明らかにし、②ATOH8刺激による、肺高血圧血管病変の抑制効果、抗炎症効果について、④NO-cGMP系腑活、炎症性サイトカイン・プロテアーゼ・BMPシグナル経路の関与を明らかにすることであった。本年度はモノクロタリン肺高血圧ラットについて結果を得た。同モデルでは、ATOH8の発現が低下していた。ATHO8の発現動態が、肺高血圧モデルによって差がある理由について検討する必要がある。
現存の試薬、機器を使用して研究を試行したため。
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