研究課題/領域番号 |
21K09044
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川本 修司 京都大学, 医学研究科, 助教 (80766668)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 血小板 / SARS-CoV-2 / spike protein / 変異種 / 構造タンパク質 / 血栓症 |
研究実績の概要 |
【背景】COVID-19患者では血栓症がよく見られ、実際に多くの報告で血小板が活性化されていることが示されている。これらの報告の多くはCOVID-19患者自身の血液から得られたものであり、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質をex vivoで用いた結果を示す報告は少ない。また、SARS-CoV-2の亜種間で凝固能や血小板活性を比較した報告はない。 【目的】α(B.1.1.7)、β(B.1.351)、γ (P.1)、 δ (B.1.617.2) 各変異種のスパイクタンパク質を用い、それぞれを健常者血小板とex vivo反応させ、その凝固能と血小板活性を比較検討した。 【方法】プロトコルは倫理委員会の承認を得た。COVID-19ワクチン接種を受けた、健常成人から採血を行い、光透過法による血小板凝集能測定、フローサイトメトリーによる血小板活性化マーカーPAC-1(抗フィブリノーゲン受容体抗体)またはP-セレクチン(CD62P)測定,TEG6sによる血液粘弾性検査(TEG)の測定を行った。SARS-CoV-2スパイクタンパク質をex vivoで血液に添加した。血小板刺激剤としてSFLLRN、アデノシン二リン酸、コラーゲンを用いた。 【結果】血小板凝集能、PAC-1およびP-セレクチン発現量は、各変異種間で有意な差はなかった。TEGでは、δ群では全例でR値(血栓形成開始までの時間)とK値(血栓形成速度)の短縮とMA値(血栓強度)の増加が認められた。 【結論】SARS-CoV-2のα、β、γ、δ変異型のスパイクタンパク質は、ex vivoにおいて血小板凝集能、PAC-1、P-セレクチン発現量に影響を与えなかった。また、各変異種間の違いも明確ではなかった。しかし、δ変異種はTEGにおいて血栓形成傾向を示した。今後より多くの被験者と変異種においてさらなる調査が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、SARS-CoV-2そのものが血小板活性化や過凝固を生じるか否かを、SARS-Co-V2スパイクタンパク質を用いて調べ、かつSARS-CoV-2がヒト血小板や凝固能に与える影響を主要な変異株間でも比較した初の研究である。SARS-Co-V2感染による血栓症発症は致死率を上げる原因となり、そのメカニズムは未だ解明されていない。スパイクタンパク質がSARS-CoV-2の細胞への付着、融合、侵入に最も重要な役割を果たし、抗体、侵入阻害剤、ワクチン開発のターゲットとして注目されていることから、当初は我々もスパイクタンパク質が血小板を活性化し、血栓症を惹起するのに最も重要な役割を果たしているのではないかと考えていた。しかし、今回の結果は当初の予想とは全く異なり、SARS-Co-V2スパイクタンパクは直接的に血小板機能に影響を与えず、変異種間においてもその差がないことをin vitroにおいて示すことができた。COVID-19患者に対する最適な抗血栓療法の確立は、喫緊の課題であるが、スパイクタンパク質の血小板受容体への結合はターゲットとは考えにくいと思われる。この内容は第49回日本集中治療医学会学術集会(仙台、2022)およびヨーロッパ集中治療医学会学術集会(パリ、ESICM LIVES 2022)において発表し、今後論文化する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
SARS-CoV-2のα、β、γ、δ変異型のスパイクタンパク質の影響を解析したが、現在猛威を奮っているオミクロン株および今後現れると思われる新しい変異種においても同様の解析を進めていく予定である。δ変異種は血液粘弾性検査においては血栓形成傾向を示したが、その精査もおこなっていく予定である。 SARS-CoV-2には、スパイク(S)、エンベロープ(E)、膜(M)、およびヌクレオカプシド(N)タンパク質を含む4種の構造タンパク質が含まれるが、SARS-Co-V2を構成するスパイクタンパク質以外の3つの構造タンパク質においても同様に、ヒト血小板に添加することで、in vitroにおける直接的な血小板機能(血小板凝集能、粘着能、放出能および各種パラメーター)に対する影響を解析し、血栓症を惹起する原因となりうる構造タンパク質を同定していく。さらに、ドッキングシミュレーションソフトを用い、同定したウイルス構造タンパク質の標的となりうる血小板受容体を同定し、その結合解析を行う。これらの結果を受け、候補と考えられる血小板受容体およびその下流経路への影響を解明することで標的分子を同定し、COVID-19血栓症に対する最適な抗血小板療法の基礎の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品に関して、一部海外からの輸入品で新型コロナウイルス感染拡大により購入できないものがあった。 旅費に関しても、新型コロナウイルス感染拡大により参加予定としていた学会がweb開催に変更されるなどしたため出張が不要となったことが原因である。
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