研究課題/領域番号 |
21K09078
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
加来 奈津子 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 特任助教 (10899355)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) / mRNAワクチン / エピトープ / SARS-CoV-2 / 受容体結合ドメイン(RBD) / 結合親和性 / 中和抗体 / ペプチドマイクロアレイ |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの迅速な展開により、現在世界中で集団免疫が促進されている。COVID-19集団免疫において、ワクチン獲得免疫は、自然感染免疫よりも優勢になると予想される。ポストワクチン時代の始まりに、感染歴のない個人においてワクチンが惹起するエピトーププロファイルを評価することは、ワクチンベースの集団免疫獲得に向けた最適な宿主防御システム構築への第一歩となる。 本研究では、Pfizer-BioNTech COVID-19 mRNAワクチン接種者とCOVID-19患者のエピトーププロファイルを、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の受容体結合ドメイン(RBD)のペプチド(15mer)を固相化したマイクロアレイを用いて明らかにした。 その結果、SARS-CoV-2 RBDを標的とするワクチンに誘導される抗体は、自然感染抗体よりもRBD全体に広く分布していた。自然感染血清と比較して、ワクチン血清で観察された比較的低い中和抗体力価は、ワクチンによる液性免疫の効率の低いエピトープ成熟に起因する可能性がある。さらに、変異パネルを用いたアッセイでは、ワクチン血清のエピトープ多様性は、急速に進化するウイルスが中和抗体を回避する余地を少なくし、ワクチン免疫に利点を与える可能性があることを示した。 エピトープ成熟は、中和抗体と抗原であるSARS-CoV-2との結合親和性で表されるが、この結合親和性は自然感染後あるいはワクチン接種後、時間経過に伴って上昇することを明らかにした。さらに臨床検査で汎用される装置で測定された抗体価は、この結合親和性とよく相関するものと、それほど強く相関しないものとがあり、検査対象者の背景や検査装置による影響についての懸念を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の核心は、SARS-CoV-2中和抗体の標的エピトープの多様性解析である。申請所提出当初はCOVID-19自然感染患者のみを対象にした研究計画としていたが、採択後にSARS-CoV-2に対するメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが国内で承認され、速やかな接種が実施されたために、解析対象をワクチン接種者にも広げて研究を進めた。 その結果、中和抗体が認識する受容体結合ドメイン(RBD)内のエピトープの多様性が、自然感染患者とワクチン接種者で大きく異なることが分かった。自然感染患者においてエピトープの多様性は少ないものの、ワクチン接種者よりも中和抗体価が高いこと、一方、ワクチン接種者のエピトープは多様性に優れ、変異株に対してのロバストネスが高いことが示唆された。これらの知見は2021年12月にMicrobiology Spectrum誌(doi: 10.1128/Spectrum.00965-21)に掲載された。 また、自然感染者における経時的な抗体の成熟、つまり抗原との結合親和性上昇を観測し、この上昇が一部の臨床検査装置における抗体価とよく相関することを見出した。この知見は2022年2月にJournal of Clinical Microbiology誌(doi: 10.1128/JCM.02262-21)に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果より、中和抗体価はエピトープのみが決定するのではなく、抗体の成熟、つまり抗原である受容体結合ドメイン(RBD)に対する結合親和性といった因子も関与することが示唆されている。そこで今後は、自然感染患者およびワクチン接種者を対象としたRBDとの結合親和性についての解析を進めていく。 抗体の成熟は時間の経過とともに起こるが、抗体価および中和抗体価についても同様の経時的な変化が観察されており、それぞれの経時変化の解析から、今後の3回目、4回目のワクチン接種の必要性、接種タイミングなどの提唱に寄与する研究を行う。 さらに、COVID-19重症度やワクチン接種に対する免疫応答は、年齢によって異なると分かっているため、年齢層に分けた解析を行い、有限な医療資源のより集中的な投入に繋がるエビデンスを構築していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は、当初予定していた旅費は、COVID-19の影響で学会活動が制限されたために使用できず、人件費およびその他(外注費)は、サンプルの採取状況により、次年度に解析を実施することとなったため。使用計画としては、次年度にサンプルの解析を行う際に人件費およびその他(外注費)の必要が発生し、学会活動に旅費を使用する予定。
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