急性脳炎・脳症は、診断や治療の遅れが転帰不良に直結する神経救急疾患である。しかし、病初期に個々の患者の神経損傷の程度を評価することは難しい。外傷性脳損傷や脳卒中などによる意識障害例を対象とした定量脳波解析を用いた検討から、脳内の機能的連絡の低下が神経学的予後と関連することが報告されており、急性脳炎・脳症例において定量脳波を用いた評価が神経損傷の指標となる可能性がある。 急性期にデジタル脳波計による脳波検査が施行され定量脳波解析が実施された単純ヘルペス脳炎(HSE)、抗N-methyl-D-aspartate受容体脳炎(NMDARE)、無菌性髄膜炎(AM)例を対象とし、神経損傷のバイオマーカーである髄液中S100β、NSE、GFAPをELISAを用い測定し、spectral ratio(power spectrum解析から得られたβ帯域とα帯域の絶対パワー値の総和/θ帯域とδ帯域の絶対パワー値の総和)とα coherence<0.5の領域の割合との相関、転帰との関連を検討した。 HSE、NMDARE、AMの3群間においてS100β、NSE、GFAP値に有意差を認めなかった。α coherence<0.5の領域の割合と髄液S100βの間に有意な相関を認めた(Spearman Rank Order Correlation、相関係数0.426、p=0.004)。 退院時modified Rankin Scale≧2を従属変数とし、spectral ratioとα coherence<0.5の領域の割合、髄液S100βを独立変数として投入した多変量ロジスティック回帰分析から、spectral ratioのみが有意な転帰影響要因として同定された(p=0.021、オッズ比0.003、95%信頼区間0.000023-0.425)。
|