研究課題
生涯にわたって障害をもたらす脳・脊髄損傷に対して、再生医療に期待が寄せられているものの、実臨床ではこれらの中枢神経を回復させる有効な治療法を見いだせているとは言えない。私たちはこれまで造血サイトカインに着目し、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)やエリスロポエチン(EPO)が圧迫脊髄モデルの運動機能を改善させることを見いだした(Spine 2016, PLOS one 2019)。しかし、相応の効果を発揮するためには、いずれも高用量が必要であることも判明した。それはG-CSFやEPOは分子量が大きいため、髄液移行性が乏しいためである。そこで、直接的かつ効率的に中枢神経に作用させるべく、髄腔内投与療法を発案した。本研究では、脳・脊髄損傷に対して造血サイトカインを基盤とした髄腔内投与療法の有効性と安全性を明らかにし、臨床に適用しうる治療基盤の確立を目指すことを目的としている。今回、2つのタイプの頚髄損傷モデル(圧迫損傷、凍結損傷)を作成した。このモデルにG-CSFまたはEPOの持続髄腔内投与を行い、運動機能の変化、病理学的変化(運動ニューロン、脳室周囲、軸索の変化、炎症等の有無)、アポトーシスの変化、脳および脊髄内の同サイトカインの濃度測定を検討した。結果として、EPOの持続髄腔内投与において、圧迫損傷モデル、凍結損傷ともに、前肢機能[stair case test(巧緻性)、後肢機能(rotarod test, 歩行パターン解析)で有意な改善がみられた。H-E染色およびChAT染色において、前角細胞数の保持が示された。ニューロンマーカーである5-HT発現の保持、synaptophysin陽性の軸索の伸長が確認された。組織中EPOレベルも有意に増加した。脊髄や脳表に炎症所見などの有害な病理所見はなかった。TUNEL法によるアポトーシスは、EPO髄腔内持続投与群で有意に減少した。
2: おおむね順調に進展している
圧迫性脊髄症および凍結脊髄損傷に対するエリスロポイエチンおよびG-CSFの髄腔内投与の効果は明らかであり、微量投与で効果があることも示された。ニューロンマーカー5-HTの保持、軸索の伸長が確認された。組織中のEPOレベルも有意に増加した。今後、脳損傷モデルにおいても、同様の評価を行っていく予定である。
R4年度は従来の動物実験に対する解析や.各種抗体や特殊試薬などは、従来備わっていたものが流用できたため、新規購入を要せず、次年度使用が生じた。R5年度以降は脳損傷モデルでの解析も運用されるため、新規備品、消耗品に充当する予定である。
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