研究課題/領域番号 |
21K09161
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
田中 俊英 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (90301530)
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研究分担者 |
赤崎 安晴 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (00256322)
佐々木 光 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70245512)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | bevacizumab / glioblastoma / tumor microenvironment |
研究実績の概要 |
「悪性神経膠腫・神経膠芽腫に対するベバシズマブ(Bev)の治療効果の長期維持の可否に関与する効果・予後予測因子及びBev治療における耐性機構は何か」というclinical questionに対して、「Bevの効果が維持されている期間に腫瘍組織内の微小環境(TME)の酸素化が維持されていることが、Bevによる腫瘍増殖の制御に寄与しているのではないか」という仮説を立て、これを実証すべく研究を進めた。初発神経膠芽腫症例を対象にして、(1) Bev治療介入前に施行した腫瘍摘出術・(2) Bev使用直後に画像上で腫瘍縮小効果を確認後に施行した腫瘍摘出術(neo-Bev)・(3) Bev治療の経過観察中に画像上腫瘍の再発時に再度施行した腫瘍摘出術または病理解剖 (refractory-Bev)の3つの条件下での腫瘍摘出標本を用いた。 本研究に併せて、neo-Bev投与後開頭手術の安全性・有効性に関する探索的第1相・早期第2相臨床試験を、慶應義塾大学・香川大学との多施設共同研究を遂行し、安全性について評価した (jRCT1031180233, UMIN000025579)。 naive-Bevを対照としてBevの効果維持のメカニズムに対する解析は、neo-Bevで得られた標本で行い、Bevの耐性機構についてはrefractory-Bevで得られた標本を使用した。 腫瘍摘出標本を用いた検討項目は、低酸素マーカー(HIF-1α, CA9)・幹細胞マーカー(nestin, FOXM1, advirin・内皮細胞マーカー(CD34)・腫瘍随伴マクロファージ(CD163)であり、これらの発現レベルを免疫組織染色法 (IHC)で比較検討した。またBev治療後のT1造影とFLAIR画像上の腫瘍容積の変化や臨床経過とIHCで得られ組織学的所見を対比してデーターを解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慈恵医大柏病院で施行したneo-Bev投与後開頭手術例・Bev治療後再発時再手術やBev治療を経て死亡された症例の病理解剖で得られた腫瘍標本を用いて免疫組織染色法 (IHC)により、低酸素マーカー(HIF-1α, CA9)・幹細胞マーカー(nestin, FOXM1,)・内皮細胞マーカー(CD34)の発現レベルを解析した。 Neo-Bev及びその再発後の病理解剖による腫瘍標本を同一症例におけるペア標本で解析した。Bev治療再発後に腫瘍標本を得ることは難しく、希少価値のある標本である。 画像上の腫瘍縮小効果が得られているneo-Bevでは、低酸素マーカー (CA9, HIF-1α) の発現は低下しており、腫瘍組織内の微小環境(TME)は酸素化に傾いていることが示された。また再発時になると低酸素・幹細胞マーカーは上昇する傾向が見られることから、Bev治療後再発をきたすとTMEは低酸素化に傾き、それに併せて幹細胞が増大し、Bevの耐性機構に関与していることが示唆された。以上からBevの効果維持には、酸素化がカギであることが示唆された。さらに幹細胞マーカー及び転写因子 (nestin, FOXM1)の発現レベルを併せて解析すると、酸素化が維持されているとこれら因子の発現が抑制され、低酸素状態になると逆に誘導されることが示された。以上からTMEの低酸素化が幹細胞の増殖を誘導しBevの耐性に関与していることに加え、FOXM1が予後予測因子として有用である可能性を見出した。 また画像所見や臨床経過と対比してデーターを解析し、学会発表・論文発表を行った。また同時に、遺伝子解析用として手術時・病理解剖時に腫瘍組織の生標本を採取し凍結保存している。症例が蓄積したところで網羅的解析を行う予定である。順調に症例数は蓄積され、解析は進行している。
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今後の研究の推進方策 |
neo-Bev治療後の画像所見(MRI, FISO-PET)における腫瘍制御の状態と病理所見を対比する。即ち、Bev投与後のT1造影・FLAIR画像上の腫瘍縮小率を計測し、その値とMRI上の無病増悪期間及びFMISO-PETの”cold”所見の関連の有無を解析する。FMISO-PET画像がBev治療の効果予測・予後予測因子となっている可能性があるため、その期間に腫瘍摘出術を施行し得られた摘出標本を用いてIHCによる低酸素・幹細胞マーカーの発現レベルを解析し、MRI・FMISO PET画像と病理組織学的所見を対比し、腫瘍組織内の酸素化・幹細胞の増殖との関連について解析を進める。またFOXM1の予後予測バイオマーカーとしての有用性を検証すべくBev治療後の無病増悪期間や生命予後との関連についても引き続き解析を継続する。Bev治療後の再発症例の手術標本及び病理解剖標本についても、neo-Bev後の再発症例に対する再手術や病理解剖は稀でありペア標本を得ることは困難なため、今後はペア標本にこだわらずに症例数を蓄積して解析を進める。 凍結保存されたペア標本を用いて、酸素化マーカー・幹細胞マーカーに加え、治療標的である内皮増殖因子(VEGF)及びその受容体(VEGFR)やVEGF以外の血管新生因子及びその受容体(angiopoietin, Tie-2)、Bev治療耐性への関与が報告されているmicroseminoprotein (MSMP)も解析対象とする。さらに制御性T細胞(Foxp3), CD8陽性T細胞、腫瘍随伴マクロファージ(CD163)、免疫チェックポイント因子など免疫監視機構調節因子の解析項目に加え流。また予後規定因子・耐性機構に寄与する新たな遺伝子変異の網羅的解析を目的にマイクロアレイや次世代シークエンス解析も計画中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析対象となる標本数が予想より多かったため、免疫染色に使用する抗体を追加して購入する必要があったため、次年度予算の一部を使用した。購入した抗体は引き続き次年度の研究にも継続して使用する予定である。 今回は初年度であり、抗体の希釈倍率・解析する標本のコホートなど免疫染色工程での条件設定の確認作業を行ったり、他の研究課題で解析する標本へも使用しため、抗体の消費量が予想より多くなったが、次年度からは手法・条件設定が確立し、他の研究課題との住み分けに留意し、本研究課題に対して支給される予算を踏まえて研究を遂行する予定である。
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