研究課題
前年度に引き続き初発神経膠芽腫症例を対象にして、(1) Bev治療介入前に施行した腫瘍摘出術(naive-Bev)・(2) Bev使用直後に画像上で腫瘍縮小効果を確認後に施行した腫瘍摘出術(neo-Bev)・(3) Bev治療の経過観察中に画像上腫瘍の再発時に再度施行した腫瘍摘出術または病理解剖 (refractory-Bev)の3つの条件下での腫瘍摘出標本を用いて、低酸素マーカー(HIF-1a, CA9)・幹細胞マーカー(FOXM1)・内皮細胞マーカー(CD34)・腫瘍随伴マクロファージ(CD163)の発現レベルを免疫組織染色法 (IHC)で比較検討した。本研究に併せて慶應義塾大学・香川大学との多施設共同研究で遂行している、neo-Bev投与後開頭手術の安全性・有効性に関する探索的第1相・早期第2相前向き臨床試験に関しては症例の登録を終え2年が経過した為、生命予後を含む臨床情報の解析を行い、第81回日本脳神経外科総会、第81回日本癌学会総会、第40回日本脳腫瘍学会で口演発表した(日本脳腫瘍学会ではTop Scoring Abstract賞を受賞)。安全性検証に加え、1次・2次エンドポイント(生命予後・画像所見上の改善度など)を評価した。Bev治療後のT1造影とFLAIR画像上の腫瘍容積縮小率・生命予後を含む臨床経過とIHCで得られ組織学的所見を対比してデーターを解析した。FLAIR高信号領域の容積縮小率は有意差が無かったが、造影所見による腫瘍容積縮小率良否とIHCによるFOXM1の発現レベルが予後因子であることを見出し、論文に報告した(Takei J et al.; Front Oncol 2022)。また香川大学との共同研究にて、neo-Bev投与前後におけるFMISO-PET画像所見とIHCによる低酸素マーカー発現レベルの比較分析を行い、現在論文投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
術前bevacizimab (neo-Bev)投与前後開頭手術例の症例数を追加し、免疫組織染色法 (IHC)により、低酸素マーカー・幹細胞マーカー・内皮細胞マーカーに加えM2腫瘍随伴マクロファージ発現レベル(CD163)の発現レベルと腫瘍微小環境の酸素化および生命予後との関連を解析している。画像上造影効果の有無とFLAIR高信号の有無の領域における病理学的所見を対比した解析を行い、非造影かつFLAIR高信号領域ではCD163 陽性細胞の浸潤が顕著であることを見出した。更に「血管の正常化」の誘導効果の有無がVEGF標的治療の効果メカニズムに関与していることを鑑み、ERG (erythroblast transformation specific related gene)発現に着目した。ERGは正常血管内皮で発現が認められ、VEカドヘリンの発現を促進し、内皮細胞間結合の統合性を制御している。またERGはVEGFで誘発される新生血管の安定化と成熟を促進する。さらにERGを阻害すると上皮間葉移行が誘発される。腫瘍血管ではERG発現が低下しており、TMEにおける炎症性サイトカインなどの可溶性因子もERG発現を抑制することが示唆されている。以上のことから腫瘍血管におけるERG発現は血管成熟度のsurrogate markerとしてだけなく、予後予測のためのbiomarkerとして有用である可能性がある。以上から腫瘍微小環境の酸素化がVEGF標的治療の効果と相関している我々のデーターを踏まえ、Bev治療経過中の効果発現・耐性時におけるERGの発現レベルの推移をIHCで評価する。既知のCD34との発現レベルの相違や画像所見や臨床経過と対比してデーターを解析する。また術時・病理解剖時に腫瘍組織の生標本を用いて遺伝子解析(single RNA sequencing解析)の準備を進めている。
術前bevacizumab(neo-Bev)治療後の画像所見(MRI, FISO-PET)における腫瘍制御の状態と病理所見を対比する。即ち、Bev投与後のT1造影・FLAIR画像上の腫瘍縮小率を計測し、その値とMRI上の無病増悪期間及びFMISO-PETの”cold”所見の関連の有無を解析する。FMISO-PET画像がBev治療の効果予測・予後予測因子となっている可能性があるため、その期間に腫瘍摘出術を施行し得られた摘出標本を用いてIHCによる低酸素・幹細胞マーカーの発現レベルを解析し、MRI・FMISO PET画像と病理組織学的所見を対比し、腫瘍組織内の酸素化・幹細胞の増殖との関連について解析を進める。またFOXM1の予後予測バイオマーカーとしての有用性を検証すべくBev治療後の無病増悪期間や生命予後との関連についても引き続き症例数を蓄積して解析を継続する。Bev治療後の再発症例の手術標本及び病理解剖標本についても、neo-Bev後の再発症例に対する再手術や病理解剖は稀でありペア標本を得ることは困難なため、今後はペア標本にこだわらずに症例数を蓄積して解析を進める。更にペア標本を用いた解析対象とする因子を、治療標的である内皮増殖因子(VEGF)及びその受容体(VEGFR)に加えVEGF以外の血管新生因子 (bFGF, angiopoietin, Eph A2)や制御性T細胞(Foxp3), CD8陽性T細胞、腫瘍随伴マクロファージ(CD163)、免疫チェックポイント因子など免疫監視機構調節因子の解析項目も解析対象とする。また予遺伝子発現の網羅的解析についても、腫瘍微小環境が組織形態を反映していることを鑑み、従来の凍結塊の解析だけでなく組織切片から解析部位を特定する空間解析が不可欠になり、本研究の如く、治療介入前後のペア標本を蓄積することの重要性が今後益々高まると予想される。
解析対象となる標免疫染色に使用する抗体を追加して購入する必要があったため、次年度予算の一部を使用した。購入した抗体は引き続き次年度の研究にも継続して使用する予定である。バイオインフォマティックス解析に要する技術料・データー解釈のためのテクニカルサポート費用・我々研究チームを紹介する電子媒体を作成する費用が高額であったため。旅費の分は抗体などの試薬購入と標本作成に要する人件費に充てた。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (37件) (うち国際学会 2件)
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