研究実績の概要 |
【目的】上衣腫は小児から若年成人の頭蓋内や脊髄に好発する脳腫瘍である。有効な化学療法はなく、開頭手術により全摘出を目指し、残存腫瘍があれば再発予防として放射線治療を行うことが現時点の標準治療である。新規治療法の開発のために上衣腫の生物学的特徴を明らかにする基礎研究が必要である。Eph受容体は膜貫通型の受容体チロシンキナーゼであり、エフリン(ephrin)と呼ばれる細胞膜に存在するリガンドと結合することによって両方向性の細胞内シグナルを伝達する。 EphA とEphBのサブクラスが 同定されており、様々ながんで悪性形質の維持に関与していると報告されているが、上衣腫についての検討はin situ hybridizationによるmRNA発現解析のみにとどまる。本研究では上衣腫におけるEph/ephrinの作用を解明し、さらに動物実験からEphB4阻害による新規上衣腫治療の可能性を探る。 【方法と結果】当科で得られた上衣腫の手術凍結検体、 4%PFA固定パラフィン包埋切片を対象とした。EphB1, B2, B3, B4, B6, ephrin-B2を一次抗体としEnvision+ 法による免疫染色を行った。腫瘍において免疫染色結果を5段階Score0:<10%, Score1: 10~25%, Score2:25~50%, Score3: 50~75%, Score4: >75%により評価した。蛍光二重染色にてEphB4, ephrinb2の共局在を確認し、蛋白発現をWestern blotにて解析した。5種類のEphB受容体ともGrade 2 10例中2例で腫瘍細胞の細胞膜に陽性、ephrin-B2は3例で腫瘍細胞の細胞膜に陽性所見を示した。一方、Grade 3 の4例中EphB1が2例、EphB2と EphB6が1例腫瘍細胞の細胞膜に陽性所見を示した。Grade 3 の全例EphB3が陰性、EphB4とephrin-B2は全例で細胞膜に陽性所見を示した。手術材料ではEphB4の免疫染色結果は蛋白レベルでもWestern blot結果と一致した。 【結論】EphB4, ephrin-B2の発現上昇は上衣腫の悪性形質に関与する可能性が示唆された。
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