研究課題
小児脳腫瘍である髄芽腫(medulloblastoma)は、小脳に発症する悪性腫瘍である。これまでに、髄芽腫細胞が分泌する『軸索誘導因子netrin-1』が髄芽腫細胞の浸潤性や血管新生を誘導することを見出した。そこで、netrin-1が髄芽腫癌幹細胞とその周辺環境組織に影響を与える『癌微小環境制御因子』ではないかと考えた。本研究では、髄芽腫癌幹細胞におけるnetrin-1とそのレセプターの役割を解明し、髄芽腫幹細胞のnetrin-1シグナルを標的とする阻害剤の探索・開発を行い、新たな髄芽腫治療薬の開発を目指す。本年度においては、髄芽腫幹細胞におけるnetrin-1の役割を解析するためCRISPR-Cas9法を用いてnetrin-1欠損細胞の作成を行った。髄芽腫細胞に先行してnetrin-1発現が確認しやすい大腸癌細胞株HCT116を用いて検討を行った。その結果、ウエスタンブロット法でnetrin-1蛋白質発現の欠損を確認した。現在、髄芽腫細胞にてnetrin-1の欠損を確認しており、その後、癌幹細胞形成に対する影響を浮遊培養およびCD133マーカーの発現変化を検討する予定である。さらに、髄芽腫細胞における上皮間葉転換EMTマーカーを評価したところ、netrin-1過剰発現細胞にてEMTマーカー数種が増加していることが明らかとなった。これはnetrin-1によって転移が亢進する動物実験系の結果と一致するものであり、興味深いデータとなった。今後は、上記のnetrin-1欠損細胞を用いた評価や、TGFb刺激による変化を精査してnetrin-1が髄芽腫の転移に与える影響を明らかにしたい。
2: おおむね順調に進展している
2022年度はnetrin-1-CRISPRベクターの構築と、遺伝子導入した細胞の単離培養からクローニングをすることに成功している。コントロール細胞として大腸癌細胞HCT116を用いた系で欠損を確認できているため髄芽腫細胞でも欠損を確認したい。EMTマーカーのスクリーニングによって転移に関与するシグナルの一端が明らかとなり、次年度に向けての方向性が明らかとなった。
まずはnetrin-1欠損髄芽腫細胞の確認を行う。ウエスタンブロットおよびDNAシークエンスにて確認しnetrin-1欠損細胞を完成させる。その後、欠損細胞を用いて癌幹細胞形成に対する影響を浮遊培養およびCD133マーカーの発現変化を検討する予定である。さらにnetrin-1シグナル評価としてEMTマーカー変動に与える影響を欠損細胞およびTGFb刺激によって検討を行う。
一部の抗体試薬、培養試薬の納期が延びたため次年度に購入予定である。購入次第、予定した実験を遂行する。
すべて 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 611 ページ: 146~150
10.1016/j.bbrc.2022.04.069