外傷性の異所性骨化は、骨折・脱臼などの外傷に対する観血的手術後に生じることがあり、重度の関節拘縮・強直を引き起こし著明な日常生活動作の低下につながる。治療として異所性骨化部位の外科的切除を行うが、再度骨化を生じる場合も多く治療に難渋する。異所性骨化の発生病態に関して詳細な機序は不明であることから、確立した治療法および予防法がなく整形外科領域における未解決な課題の一つである。本研究では異所性骨化における分子メカニズムの解明に加えて新規治療法を探索することを目的とした。第1段階の研究の予備実験として、我々はマウスのアキレス腱を切断し、間隙を5mmあけることにより、全例でアキレス腱切断部に異所性骨化が生じることがマイクロCTにより確認された。さらに、経時的な異所性骨化の体積量を調査したところ、切断後1週、2週では骨化が生じておらず3週から骨化が生じはじめ、5週で10週の体積量の50%程度となることが確認された。次いで第2段階として、アキレス腱切断部位におけるTNFαの発現を切断後1週において解析したところ、TNFαを発現する炎症細胞が腱切断部位に集積することが確認された。さらにTNFαノックアウト(KO)マウスにおいて、野生型マウスに比べて術後10週での異所性骨化体積量が有意に減少していたことから、外傷性の異所性骨化マウスモデルにおいて、TNFαシグナルが異所性骨化の形成に必要であることが証明された。 またアキレス腱切断部にはリン酸化mTOR(pmTOR)が認められ、mTOR阻害剤であるラパマイシンを野生型マウスへ腹腔内投与するとマイクロCTで測定された異所性骨化部の体積がコントロール群のマウスより有意に減少するといった結果が得られたことから、TNFαを介したmTORシグナル経路は、外傷による腱の異所性骨化を予防するための治療上の標的となり得ると考えられた。
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