末梢神経を扱う手術は、絞扼性神経障害に対する除圧・開放術と、神経切断に対する縫合術・移植術に大別される。絞扼性神経障害の代表として手根管症候群や肘部管症候群があげられ、現在でも数多くの手術が行われているが、術後の神経と周辺組織の癒着(図1)によって頑固な痛みや異常知覚が残存するケースが一定数発生する。癒着防止のために脂肪組織による被覆を行うこともあるが、癒着防止の有効性を示すエビデンスは明確ではなく、癒着予防の手段は現在も確立されていない。脊髄周辺の手術においても、除圧術後の硬膜や神経根周囲の癒着は術後の症状の改善を妨げ、また再手術の際には術野の展開を困難にし、医原性神経障害を誘発しうる。神経縫合術においては、縫合部への瘢痕組織の進入は癒着のみならず、術後神経障害の大きな原因と考えられている。このように、術後に起こる神経と周辺組織との癒着や瘢痕組織の形成は術後成績を下げ、患者満足度の低下に直結する、臨床上極めて重要な課題である。本研究では、このような神経癒着を予防すべく、工学部で開発されたTetra-PEG gelを癒着予防材として使用し、その効果を検証した。 まず、ラットの坐骨神経を使用し、癒着モデルを作成した。ラットの坐骨神経を大腿骨後方から展開し、露出し、周囲と剥離した後に、神経周囲の筋組織を電気メスで焼灼した。その後、神経をゲルで被覆する群と、生食のみで処置した群に分け、3週間後の癒着の程度を検証した。その結果、ゲル群では有意に癒着が予防されていた。生食群では、周辺組織との癒着が顕著であった。
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