研究課題/領域番号 |
21K09265
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
高木 岳彦 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 小児外科系専門診療部, 部長 (00348682)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 義手 / 上肢形成不全 |
研究実績の概要 |
1.末梢(手関節、手掌)の形成不全に対応した小型モーター搭載の筋電義手 一般の筋電義手ではモーターの体積の関係で前腕より高位の欠損でないとスペースの余裕がないため適応とならないが、小型化することでこれを実現させた。さらに筋電義手は断端部に残存する筋肉の信号を表面筋電図として捉えてこれを用いて義手の手指をコントロールするものであるが、従来は人が義手の電極にある筋を動かす(義手に自分の動きを合わせる)訓練が必要であったが、患者ごとに表面筋電パターンが異なるため、人の動きを義手が学習する(義手が自分の動きに合わせる)AI技術を搭載したことにより、装着初日に筋電信号を覚えこませて筋電義手の手指屈伸動作を可能とした。 2.末梢(手指)の形成不全に対応した能動指義手 一部手指が残存していればこれを動力源として用いることが可能なため、残存手指で操作する義手を開発した。一般には、能動義手などとも呼ばれる義肢の一種であるが、例えば、指1本だけが残存する場合においても、指先の精密つまみ動作と側方握り動作の2種類の動作を切り替えて使うことができる機構に特徴を有しており、新規性と独創性を有する内容となった。 3.その他特殊形成不全に対応した位置センサ搭載の電動義手 特殊形成不全に対しては残存筋が存在するためそれを利用した筋電義手について試行錯誤を繰り返したが、上記のような筋電義手、能動指義手を直接適応させることは難しかったため、その形成不全の形態、病態に応じた電動義手を開発した。例えばフォコメリアと呼ばれる胸部あるいは上腕骨に直接手部が付着する病態を有する形成不全に対しては上肢全体の高度な形成不全こそあるものの手指の動きは保持されている。そのためこの動きに対して曲げセンサ、近接センサを使用して動作意図を検出する機構を搭載した義手を開発し玩具の把持を含めた義手の手指屈伸動作に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当センターは日本有数の上肢先天異常を扱う病院で先天性上肢形成不全の患児が全国より紹介されてくる。当該患者が来院した場合、インフォームドコンセントを得た上で共同研究を行う工学系研究者で開発された義手を装着し、装着後は定期的に当センターに受診して機能評価を行う体制が整えられている。共同研究先の研究室、病院のリハビリテーション科医師、作業療法士、ならびに義肢装具士と研究協力体制を組み、適宜合同カンファレンスを行い、患児の状況に応じ方針を決める体制が整えられている。その協力体制の中で、研究はおおむね順調に進展していると考えてよい。
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今後の研究の推進方策 |
直接研究に参加している患児の未来を見据えると、研究開発のみを繰り返すのでは先の見える形とはならない。そのため、医療機器、福祉機器としての認可を含め、今後は持続的に利用に適応するAI技術を開発することにより、人の成長と発達に寄り添いながら社会生活を支える義手の開発へ繋げていく必要がある。共同研究を行っている工学系研究者はこの技術の実装のために、長年現場に向き合いながら研究開発を進めてきた。それに加えて、ターゲットにする医療領域が中心となって事業化を進めることで、現場に対してもスムーズな導入が進められPlan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)のいわゆるPDCAサイクルもより効率よく回せるとも考えている。現実的には海外は筋電義手の普及率が異なるために日本と比べて市場が大きくなるが、全般的に上肢形成不全に対する義手市場は小さいと言える。解決へのアプローチは機構を共通化することである。例えば手の機構部において指の対立・回転に対する機構が共通化可能である。手の機構部のほかにも筋電センサシステム、装飾用グローブ、支持部などそれぞれの部品がモジュール化され,組み合わせを自由に行うことによって電動義手,筋電義手,能動指義手,装飾用義手すべての義手の種類が製作可能となってくる。また手部義手,前腕義手、上腕義手、肩義手のすべての形成不全の患者への対応も可能となる。さらにはモジュールを構成する機能部品は一般流通化されているモータやセンサ,接手などを転用することにより低価格化にも貢献できる。以上より、乳幼児から成人までの様々な形成不全の症例に適応可能なセンサ技術と適応学習機能を備えたAI技術、防水・防塵機能を備えた技術を搭載させることにより、今後は,持続的に利用が可能なように人の成長と発達に寄り添いながら社会生活を支える義手の開発へ繋げ、社会実装に向けて進めていきたい。
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