研究課題
超高齢社会に突入した我が国において、高齢者運動器疾患であるサルコペニアに対する予防法や治療法の開発は喫緊の課題である。本研究では、脂溶性栄養素であるビタミンDに着目し、骨格筋に対する作用やサルコペニアとの関連性について、遺伝子組換えマウスや地域住民を対象とした疫学研究を用いて多角的に検証した。まず初めに、地域住民を対象とした長期縦断疫学研究(NILS-LSA)のデータセットを用いて、ビタミンD欠乏と骨格筋量、筋機能、サルコペニア発症率の相関性について検証した。その結果、ビタミンD欠乏者は近い将来に筋力の低下が生じ、サルコペニア発症リスクも高まることを明らかにした。この研究成果を受けて、成熟した筋線維特異的にビタミンD受容体(VDR)を欠損したマウスを作出し、成熟筋線維におけるビタミンDの機能について検証したところ、本マウスにおいて著しい筋力低下が生じていた。また、この筋力低下には筋収縮に関わるSERCAの発現低下が関わっていることなどを明らかにした。これらの結果は、疫学データ解析におけるビタミンD欠乏者における筋力低下およびサルコペニア発症率の増加を裏打ちする研究成果であり、サルコペニア予防におけるビタミンDの重要性を示した。近年、サルコペニアの発症や増悪化に骨格筋内に異所性に蓄積する脂肪組織が関与する可能性が指摘されている。しかし、その機構は全く分かっておらず解明されるべき課題の一つとして挙げられている。本研究ではこの点についても検討し、異所性脂肪組織の起源細胞である間葉系前駆細胞においてVDRが高発現していること、ビタミンDが間葉系前駆細胞の脂肪分化を強力に抑制する働きがあること、などを明らかにした。本研究成果は、高齢者で見られるビタミンD欠乏状態が異所性脂肪蓄積に関わる可能性を示した初めての報告である。
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Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle
巻: 15 ページ: 13448
10.1002/jcsm.13448