我々は工学的観点から骨肉腫細胞の肺での増殖過程を研究し、骨肉腫細胞がコラーゲン線維が増殖する以前の軟らかく足場の乏しい環境でも腫瘍外環境からの機械的シグナルに依存せず足場への接着依存性(足場依存性)に増殖することを見出した。本研究では、in vivoのCRISPR活性化スクリーニングとin vitroのRNA-seq解析を用いて、肺転移初期段階で、骨肉種細胞が軟らかく足場となるコラーゲン線維の乏しい環境での足場依存的、機械刺激非依存的増殖メカニズムを明らかにし、治療標的となる分子を同定することを目的とした。 RNA-seq解析では、高肺転移株LM8では、複数のCdc42GEF発現が増加し、複数のCdc42GAP発現が低下していた。いくつかのCdc42GAPはTARGET OSプロジェクトの公開データで患者予後との関連が確認された。さらに、軟らかい環境ではRibosome活性が亢進していることが分かった。いくつかの Ribosomal protein はTARGET OSプロジェクトの公開データで患者予後との関連が確認された。CRISPR活性化スクリーニングでも、肺転移した骨肉腫細胞内で増幅された遺伝子をGO解析するとリボソーム関連遺伝子群の増幅が確認された。 今後は、上記の結果を踏まえて、リボソーム活性やCdc42活性が、“足場の乏しい軟らかい環境”での骨肉腫細胞の増殖を促進し、肺転移を増加させるメカニズムを明らかにする計画である。本研究によって、肺組織の軟らかさに対応した増殖メカニズムという新たな治療標的を発見し、骨肉腫肺転移の抑制療法を開発する。
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