研究課題/領域番号 |
21K09297
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
町野 正明 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (70807510)
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研究分担者 |
今釜 史郎 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (40467288)
安藤 圭 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (40566973)
小林 和克 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (00706294) [辞退]
中島 宏彰 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (70710101)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 受容体型チロシンキナーゼ / 神経再生 / 活性化リガンド |
研究実績の概要 |
神経系において特異的に発現の見られる受容体型チロシンキナーゼ(RTK)およびそれらのリガンドは、神経系の発生、分化、生存維持など多彩な生物学的機能を有している。未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)もまた神経系に特異的に発現するRTKであり、特定の神経細胞集団に対して増殖、生存維持などの作用を持つ神経栄養因子、または軸索誘引・反発作用などを持つ位置情報因子に対する受容体として機能していることが期待されるが、ALKに対するリガンドは現在未同定でありその詳しい機能は不明である。本研究の目的はALKのリガンドを特定し、神経軸索に対する作用を解明することである。ALKの活性化により引き起こされるシグナル伝達経路の解析および細胞レベルでのALKの機能解析を行う。ALKの同定されたリガンドによる神経軸索伸長効果を動物実験にて確認し、これを標的とした新規神経軸索障害治療法の開発につなげる。 ALKのアゴニストであるモノクロナール抗体(mAb16-39)をNB-1細胞株に投与することで、リン酸化ALKの発現亢進をWestern blotting法により検討した。またALK阻害剤(ASP3026、Crizotizib)をNB-1細胞株に投与しALKのリン酸化発現低下の時間経過および容量依存性を確認した。これらの実験から得られた結果を、マウス後根神経節DRG(dorsal root ganglion)から抽出したニューロンを用いて神経軸索の伸長を観察する再現実験を行った。未知のALKリガンドの想定される生理的機能や、引き起こされる下流シグナルの基礎的情報を得ること、またリガンド候補の検索・同定することを目的に、表面プラズモン共鳴・質量分析計を用いて精度の高いターゲットの捕捉を狙う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALKの中枢神経における発生学的な発現を確認するためにC57BL/6Jマウス全脳におけるmRNA発現を胎児期から出生後まで測定した。またマウス後根神経節DRG(dorsal root ganglion)から抽出した初代培養ニューロンを用いて神経軸索におけるリン酸化ALKの発現箇所を免疫染色にて観察した。ALKの発生学的な発現は出生直後がピークであり、神経軸索成長円錐尖端でリン酸化ALKの発現が亢進することを確認できた。ALK阻害剤であるASP3026とアゴニストであるモノクロナール抗体(mAb16-39)をHEK293T細胞株に投与しリン酸化ALKの発現を免疫染色とWestern blotting法にて確認した。DRGニューロンにASP3026とmAb16-39を投与し神経軸索長と神経sproutingを定量的に評価した。N2a細胞株にsiRNAを用いたALKのknock downを行い、qRT-PCRにてALKのmRNAを確認した。ALKのKnock down有無によるDRGニューロンの神経軸索長とsproutingを比較検討した。ASP3026投与にて濃度依存性にリン酸化ALKの発現は低下し神経軸索伸長とsproutingは抑制されることを確認できた。またmAb16-39投与にてALKの発現は上昇し神経軸索伸長とsproutingは亢進することも確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
表面プラズモン共鳴(SPR)・質量分析計を用いて精度の高いターゲットの捕捉を狙う。リガンド 候補(コンドロイチン硫酸CS-A、CS-B、CS-C、CS-D、CS-E、ケラタン硫酸KS、へパラン硫酸HS) との相互作用を解析する。同定されたリガンド候補をHEK293T細胞株に投与しリン酸化ALKの発現を免疫染色とWesternblotting法にて確認する。リガンド候補のコア蛋白を用いて同様の実験を行う。C57BL/6Jマウス後根神経節DRG(dorsal root ganglion)から抽出した初代培養ニューロンを用いて神経軸索伸長を投与群と非投与群にて定量的に比較検討する。また初代培養ニューロン軸索尖端におけるリン酸化ALKの発現を免疫染色にて観察する。 ALKと最も相互作用のあることが分かったプロテオグリカン(コア蛋白)であるBiglycanとDecorin 投与にて濃度依存性にリン酸化ALKの発現を確認する。コア蛋白投与群で神経軸索成長円錐尖端においてリン酸化ALKの発現が亢進するか検証する。コア蛋白投与群で神経軸索が伸長することが予想される。当研究室は予備実験にてCS-B(デルマタン硫酸)はALKに結合する新たなリガンドであり、ALKを活性化する機能を有することを確認している。デルマタン硫酸とそのコア蛋白はALKの活性化を誘導し軸索伸長に寄与しており、今後神経再生研究に応用できることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究目的を精緻に達成するための予備実験の実施を行っている。免疫染色法を確立するための組織学的予備実験の過程で、抗体の効果を検証するためにいくつかの条件設定で実験を行った。染色結果に予期しないばらつきが見られた。この現象の原因を究明することが不可欠なため、別の抗体で免疫学的評価実験を追加して実施し、再実験結果を評価する予定となった。このため追加実験が必要となり次年度使用額が生じた。 現在ALKがin vivoでの軸索再生に関わっていることを、視神経損傷モデル・脊髄損傷モデルを利用して確認している。ALKノックアウトマウスを利用し、中枢神経損傷後の軸索再生の程度を免疫染色やトレーサーを用いて野生型マウスと比較する。中枢神経損傷後の機能回復に差があるか検討する予定である。予備実験にて視神経損傷モデルにおいて、ALK投与による神経再生能を確認できたため、今後脊髄損傷モデルにおいても同様の実験系を確立する。先行研究において、ALKは神経系の発達・維持に寄与していることが明らかとなり、ALKの活性化は神経軸索伸長と神経sproutingを促進し、ALK不活化は軸索伸長とsproutingを抑制する作用を示していた。ALKと機能的対立が予想される受容体型チロシンフォスファターゼPTPRσとの相互作用についても解析を進める方針である。今後研究結果を学会発表し論文投稿を行う予定である。
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