研究課題/領域番号 |
21K09299
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
北川 教弘 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (30294284)
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研究分担者 |
岡 千緒 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (30263445)
別所 康全 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (70261253)
山下 照仁 松本歯科大学, 総合歯科医学研究所, 准教授 (90302893)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 骨代謝 / 破骨細胞 / シグナル伝達 / 免疫学 / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
本研究では、1. Siglec-15が必要かつ十分なDAP12会合受容体である、2. Siglec-15-DAP12複合体とNFATc1が形成するポジティブフィードバックループにより、Siglec-15-DAP12複合体の数が増加する、3. 未知のSiglec-15リガンドによりITAMシグナル経路が活性化しNFATc1の核内移行がさらに促進される、以上3点からなる仮説を立て、これを検証することを目的とする。当該年度は下記3項目についての研究成果を得た。 1)研究分担者山下とともに大腿骨遠位部骨梁骨をμCT解析した結果、野生型マウスと比較してSiglec-15遺伝子欠損マウスおよびDAP12遺伝子欠損マウスは既報で示されたとおり骨量が増加した。これに対し、これら単独遺伝子欠損マウスと両遺伝子欠損マウスの骨量には有意な差が認められなかった。本結果はSiglec-15とDAP12が同一経路で働く遺伝学的な傍証となる。 2)revSSDKAはSiglec-15-DAP12複合体を1ポリペプチドで模倣する。DAP12遺伝子欠損遺伝子背景下で破骨細胞特異的にrevSSDKAを発現させたマウスの大腿骨遠位部骨梁骨を1)と同様にμCT解析した結果、revSSDKAの発現はDAP12遺伝子欠損マウスが呈する骨量増加を有意に回復した。本成果はSiglec-15が破骨細胞の骨吸収活性の獲得に十分なDAP12会合受容体であることをin vivoで示す初めての知見である。 3)野生型およびDAP12遺伝子欠損マウス由来骨髄マクロファージに恒常活性化型NFATc1を強制発現し分化誘導した結果、野生型マウス由来細胞では、多核破骨細胞が形成されないRANKL刺激2日後に破骨細胞が多数観察されたのに対し、DAP12遺伝子欠損マウス由来前駆細胞では認められなかった。本知見はITAMシグナル経路がNFATc1の核内移行を促進する以外にも働くことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
飼育可能なマウスの数が限られるため、当該年度は遺伝子組換えマウスを主に【研究実績の概要】に記載した1)および2)のμCTによる骨形態の観察へと利用し、一定の成果を得ることができた。またこの過程で各種遺伝子型マウスの血清を採取しており、これらマウスにおける生化学的マーカーを用いた骨代謝の評価を行う準備も整っている。さらに研究分担者岡とともにDAP12およびSiglec-15遺伝子欠損マウスの視床領域の切片を作成し、ミエリン結合タンパク質を免疫染色する手法を確立し得た。 これに対し、研究計画調書で提案したB-1) Siglec-15がカルシウムオシレーションおよびNFATc1の核内移行を制御することを確認する、B-2) Siglec-15-DAP12複合体とNFATc1がポジティブフィードバックループを形成するのかを検証する、A-3) 破骨細胞分化過程でDAP12と会合する受容体の経時的変化を網羅的に解析する、C) Siglec-15-DAP12複合体に結合するタンパク質を探索し、それらの機能を明らかにする、については実験に必要な遺伝子組換えマウスを用意し得なかった。そのため当該年度はこれら研究の実施を見送ったが、研究遂行に必要な実験材料の準備は着々と進めている。細胞内カルシウム濃度変化をモニターする蛍光タンパク質GCaMPは研究分担者別所が既に保有しており必要な時に使用が可能である。またこれら実験に必要なベクターの作成および検定はほぼ済ませている。
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今後の研究の推進方策 |
DAP12遺伝子欠損条件下における改良型SSDKAの発現が骨組織に及ぼす影響を骨形態計測および生化学的マーカーを用いた骨代謝の評価にて行う。また昨年度までに各種遺伝子型マウスから血清を採取しており、それらを用いて生化学的マーカーを用いた骨代謝の評価を行う。本研究は主に研究代表者北川が遂行するが、研究分担者山下はそれをサポートする。 DAP12遺伝子欠損マウスは視床領域で髄鞘形成不全を呈する。Siglec-15遺伝子欠損マウスの視床領域で異常がないことが明らかになった場合、Siglec-15を標的とした骨疾患治療薬やがん免疫療法がこれら領域への影響がないと推定し得る。研究分担者岡はSiglec-15遺伝子欠損マウスの視床領域切片を作成し、ミエリン結合タンパク質染色像の異常の有無を検証する。 Siglec-15 KOマウス由来マクロファージをRANKLで刺激し、1)細胞内カルシウム濃度変化、および2)NFATc1の核内移行速度、をライブイメージングにて計測する。2)については、GFPタグを付加したNFATc1を発現させ、核内に局在するGFPをフォトブリーチングし、その回復速度を計測する。ライブイメージングに必要な材料および技法は研究分担者別所がサポートする。 精製用タグを付加したDAP12を発現させたDAP12遺伝子欠損細胞を分化誘導し、各分化段階でDAP12と共沈する会合受容体を質量分析法で解析する。検出される各DAP12会合受容体の存在比を算出する。またSiglec-15-DAP12複合体を1分子で模倣するモデル分子revSSDKAをSiglec-15遺伝子欠損もしくはDAP12遺伝子欠損マウス由来破骨細胞で発現させ、アフィニティー精製と質量分析法により本分子と会合するタンパク質を単離・同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本研究の遂行には各種遺伝子改変マウスを統計的に解析するために必要な数を確保する必要がある。本年度は遺伝子改変マウスをμCTによる骨形態の観察へと優先的に利用したため、これらマウスから採取した初代培養細胞を用いた実験の遂行を見合わせた。それとともに既存の消耗品である程度研究を遂行し得たため、結果として消耗品に次年度使用額が発生した。 (計画)上記実験計画を遂行する上で、特定の遺伝子型の組換えマウスを確保することが必須となる。研究遂行の加速のため本年度は飼育するマウスを増やす予定であり、当初予定していた経費から超過する飼育費に次年度使用額を使用する。また各種遺伝子型マウスの骨を形態学的に調べるため骨形態計測を外注する際に使用するとともに、中枢神経を形作る細胞のマーカータンパク質に対する抗体を購入する費用などの消耗品購入にあてる。
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