本研究では変形性関節症(OA)の発症や進行に関するメカニズムとして、力学的負荷と関節軟骨におけるWnt/β-cateninシグナルを介した軟骨内骨化過程の関与に着目した。「OAのような過剰な力学的負荷が加わる環境下において、スクレロスチンは軟骨内骨化を抑制し、関節軟骨を維持するように作用するか」について検証することを目的として調査を行った。 高位脛骨骨切り術の症例は内反変形を伴い、術前は過剰な力学的負荷が内側コンパートメントに集中するが、下肢アライメントの矯正により術後は関節内の力学的な環境が至適化され臨床症状が改善する。術前、術後(抜釘時)に関節液を採取し(n=30)、ELISA法にて各種関節マーカーおよびスクレロスチンの発現を測定した。術後の臨床症状改善とともに各種関節マーカーの改善とスクレロスチン濃度との関連性を示すことができた。 In vitro軟骨分化での力学的負荷モデルにおけるWntシグナルの発現を調査した。ヒトOA由来軟骨細胞を単層培養し、力学刺激培養装置にて伸張の力学的負荷をかけ実験を行った。伸張の条件や解析までの時間などの条件を変えながら、リアルタイムRT-PCRにて軟骨分化関連遺伝子の発現とWntシグナル関連マーカーの発現を評価した。力学的負荷に応じて軟骨分化関連マーカーの増加がみられたが、Wntシグナル関連マーカーの有意な変化はみられなかった。本研究結果から、OAにおける力学的環境の変化がWntおよびスクレロスチン発現に影響することが示されたが、直接的な関連性はみられなかった。
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