研究課題/領域番号 |
21K09309
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
依田 昌樹 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (30464994)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 筋再生 / 筋線維化 / 筋衛星細胞 / 加齢 / 筋損傷 / FAPs |
研究実績の概要 |
筋性拘縮や加齢は、骨格筋の再生能力を低下させるばかりではなく筋変性を生じる。筋変性は骨格筋内に存在する間葉系前駆細胞(fibro/adipogenic progenitors; FAPs)が病的環境下で脂肪細胞および線維芽細胞に分化してしまうことにより生じる。申請者らはこれまでの研究でPDGFRシグナルの阻害によりFAPsの脂肪細胞分化が抑制できることを報告した。しかしながら、FAPsの線維芽細胞分化に関しては分子機構が明らかとなっておらず、予防法および治療法もないのが現状である。また、筋損傷後には筋衛星細胞(SCs)が分化・融合することで筋再生が行われる。FAPsとSCsは相互作用により筋組織の恒常性を維持し、そのバランスが加齢や損傷によって崩れるとFAPsの筋変性が生じると仮説を立て研究を進めている。本研究では組織学的解析および遺伝子発現解析からFAPsが引き起こす筋変性に関与しているシグナル分子の同定を目指している。その分子の阻害剤をマウスモデルに投与することで筋線維化が抑制できるかを検討し病的状況下における骨格筋の線維化発症機構の解明および新規治療薬となりうるターゲット分子の選定を目的としている。2021年度は、FAPsおよびSCsを可視化できる遺伝子改変マウスの作成を行い組織学的手法により損傷後の経時的な細胞動態を解析した。さらに、筋損傷後に筋線維化が亢進する遺伝子改変マウスの使用、FAPsおよびSCsを成獣で除去できる遺伝子改変マウスを使用して、FAPsを線維芽細胞へと分化させる因子もしくはシグナル分子を同定のため遺伝子発現解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は実験で使用する遺伝子改変マウス(Pax7/Tdtomatoマウス;SCsを赤色蛍光で可視化できるマウス、Pdgfra/Tdtomatoマウス;FAPsを赤色蛍光で可視化できるマウス、Pdgfra/DTAマウス;FAPsを成獣で除去できるマウス)の交配および組織学的な観察を中心に行った。また、野生型マウスを使用して筋損傷後の遺伝子発現解析も並行して行った。 しかしながら、2021年度は慶應義塾大学医学部のマウス飼育室の大規模工事が行われ、当初予定していたマウス使用数の確保が困難となった。その中でも、上記の赤色蛍光を呈する2系統の遺伝子改変マウスの作成はできており、筋損傷後の筋組織中のFAPsおよびSCsの局在などが確認できた。現在、マウス飼育室の再開を待ち実験に使用するマウスの匹数の確保といった重要課題を残した。また組織学的解析から、筋再生は本来ならばSCsの分化・融合のみが関与しFAPsの関与に関する報告は少ないのだが、融合途中の筋細胞中にFAPsの存在が確認され、筋細胞の融合にFAPsが関与している可能性が示された。一方で筋再生中の遺伝子発現動態において他臓器での線維化にも関与が言われている、コラーゲンIII、ペリオスチンの分子発現上昇が確認された。これらの分子は免疫染色でも確認できており、SCsが欠落した遺伝子改変マウスでは野生型マウスと比較し筋再生中の長い期間その発現が高値であることが示された。この結果からSCsによる筋線維化制御機構が存在する可能性が考えられた。今後は、データの再現性の確認およびシグナル分子の発現解析といった課題が残った。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、実験動物の確保を十分に行い、現在遅れている2021年度に予定していた筋損傷後の筋組織中の細胞動態をFACSで解析する。また、SCsおよびFAPsをセルソーターで分離し培養することを考えている。上記の赤色蛍光を呈するマウスを使用することで、SCsおよびFAPsの単離の簡便化が図られるものと思われる。また、定常状態と筋損傷後におけるFAPsの単離を行い、遺伝子発現の違いをマイクロアレイ解析など用いて線維化関連分子の同定を進めていく予定である。また、ヘッジホッグシグナル、Wntシグナル、Notchシグナルを中心に、損傷後の筋組織全体および単離したSCs・FAPsに関連しているシグナル分子の探索も行う予定である。組織学的解析からも筋分化・融合にFAPsがどのように関与するか筋損傷後の動態を組織の透明化による立体的な解析から明らかにしたいと考えている。In vitroの系では老齢マウスおよび若齢マウスから単離したSCsとFAPsの共培養を行い、筋分化がそれぞれの細胞の加齢に伴い変動するのかどうかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は慶應義塾大学医学部における大規模なマウス飼育室改修に伴い、凍結胚の作成(慶應義塾医学部)、凍結胚からの個体復元作業および個体の飼育費(実験動物中央研究所)に関する費用がかかり、飼育費が復元した個体の匹数に依存すること、年度を超えての飼育費が発生する予定であったことなどから研究費の使用を余儀された。年度を超える飼育費は、2022年度の研究費で支払いが可能となり、当初予定していた飼育費の余剰分が生じた。また、コロナ禍により学会参加を控えたことによる研究費の余剰分も生じた。また、効率的な物品購入を行ったことによる余剰分も生じた。2022年度は上記のマウス飼育費の支払いを余剰分で行う予定である。また、遺伝子解析用試薬・細胞単離用のFACS用試薬・免疫染色用抗体の購入を予定している。消耗品費としても培養用ディッシュや、各サイズのチューブ類の購入を予定している。
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