2022度は損傷後の再生筋組織中の遺伝子発現解析を経時的に行った。しかし、その結果が損傷後のFAPsにおける遺伝子発現と相関関係を示しているかは不明であった。そこで2023度は筋組織中に存在する間葉系前駆細胞(FAPs; Fibro-Adipogenic Progenitors)を対象に損傷3日後および7日後の再生筋組織中に存在しているFAPsを単離し、変動している遺伝子をRNA-seq解析により評価することを目的に研究をすすめた。同時に拘縮筋萎縮モデルマウスを使用し、拘縮後の筋萎縮抑制に関連する遺伝子群を調べた。筋損傷後セルソーターにてFAPsを単離しRNA精製後RNA-seq解析を受託依頼にて行った。得られたデータから筋損傷群で上昇する遺伝子を選定し評価した。また、筋損傷だけではなく筋拘縮モデルマウスにおいても同様に拘縮時にFAPs中で変動する遺伝子のRNA-seq解析を行い評価した。 筋損傷モデルにおいては再生初期である損傷3日後にPen3、Col1a1、Lox、Vasnなど他臓器の線維化に関連して発現増加が認められている遺伝子群が、筋損傷群で上昇していることが確認できた。これらから、損傷後速やかに筋再生が起こらないと、間質組織中の線維化要素が蓄積し線維化につながる可能性が考えられた。また、筋拘縮モデルでは拘縮後FAPsにおいてIl1rl1(別名;ST2)の発現が若齢、老齢ともに上昇することが分かった。またST2のリガンドであるIl33も若齢マウスでのみ上昇することが確認された。また若齢マウスの拘縮時に、IL-33および可溶型ST2(IL-33の阻害剤)を投与した結果、可溶型ST2投与群では筋萎縮が悪化した。このことよりIL-33は拘縮性筋萎縮の治療薬となりうる可能性が示された。
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