研究課題/領域番号 |
21K09322
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗山 新一 京都大学, 医学研究科, 助教 (90722942)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 関節軟骨 / 硬度 / 低侵襲 / 高精度 / 測定器械 / 関節鏡 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
膝関節軟骨は、加齢変化に加え外傷により若年者でも損傷し、膝関節痛の原因となり、就労やスポーツ能力低下を起こす。保存療法無効例には関節軟骨修復手術として種々の手法が行われ、質問紙、画像、血液学的評価などにより良好な結果が報告されている。しかし、どれも間接的な類推による評価に留まり、再生軟骨が、正常軟骨である硝子軟骨の機能的強度まで達しているかは未だ不明である。 一方、動物実験レベルであるが、軟骨力学試験として非常に小さな端子を用いて小荷重を軟骨に加え、端子の変位量により軟骨の硬度や弾性を計測するナノインデンテーション法が存在する。しかし、非常に微小単位な測量であり、ヒトにおける関節軟骨を臨床評価するには繊細すぎる検査手法であるが、この手法は直接的ではあるが非破壊試験のため、ヒトの関節軟骨力学特性評価を手術時に行うために重要な手がかりとなる。 従って私たちは、ナノインデンテーション法の学術的背景を応用・比較材料とするため、押し込み試験を基礎としながらも、生体関節内の複雑な軟骨形状に対応できる測量器械の新規開発に取り組んだ。今回、工業製品や食物のやわらかさを弾性係数で定量化し、品質管理目的で開発された硬度測量器械に着目し、軟骨硬度測定の課題を克服するデバイスの開発を行うことを目標とした。 本研究の軟骨硬度計の開発では、ナノインデンテーション法の押し込み試験を応用し、対象部と接する圧子を10-3mmの精度で押し込み量を調整、規定した変位量で加わった荷重と、押し返される力の関係から定量化することができると考えられた。また、本研究の礎となる測量器機は、ヒトの関節軟骨の約2mmから5mmの厚さに対し、十分な力と押し込み量を確保する動力およびセンサーを有するため、精度の高い軟骨硬度測定が期待できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低侵襲で高精度な関節軟骨硬度計を関節軟骨測定に最適化し、測定結果の信頼性を立証することが令和3年度の達成目標であった。まず非侵襲試験として、当施設で行う人工膝関節置換術時に切除される膝関節軟骨を用い、生体外で軟骨弾性係数を測定した。大腿骨側の内側軟骨は完全に摩耗していたが、外側軟骨は概ね残っていた。よって、外側軟骨面を非損傷側、内側を損傷側として、内外側関節とも表面を9分割に分け、それぞれのエリアで損傷グレード分類(ICRS分類グレード0: 正常からグレード4: 軟骨下骨損傷)を行った。切除軟骨は歪まないステンレス板上に置き、分割エリアごと軟骨硬度の測定を行った。また、術前にT2マッピングMRIを撮像し、切除軟骨切片を用いて組織学的評価も行った。サンプルサイズは、30膝必要と算定されていたが、1年間で50膝の検討を行うことが可能であった。その結果、軟骨硬度と軟骨組織学的損傷の程度は有意に相関し、軟骨硬度から組織学的軟骨損傷の程度を導き出すことができた。また、デバイスの測定精度も極めて良好な級内相関が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の目標は、関節鏡下で非破壊試験が可能な圧子を開発し、生体内軟骨硬度測定を実用化することであり、令和3年度の精度検証のデータベースを基に、関節鏡下での測定実現性と圧子の信頼性を検討する。 まずは、屍体膝関節を用いて、実際の手術と同様のセッティングを検討し、精度の高い軟骨硬度測定が可能か確認する。軟骨硬度計本体は、電動式アームホルダーに固定し、防水カバーで覆う。関節鏡用専用圧子は、測定器械本体に直接接続することで、どのような角度でも安全に測定できるかチェックする。 正確性と安全性を担保できた段階で、倫理委員会の認可を得て、骨軟骨柱移植および自家培養軟骨移植術前後の患者を中心として、移植前の正常部位と損傷部位の軟骨硬度と移植後1年のセカンドルック時の正常部位と修復部位の軟骨硬度を計測する。令和3年度に集積したデータベースと同等の結果が得られるか比較し、乖離した場合に関節鏡用圧子の内筒と外筒での摩擦の関与を疑い、有限要素解析結果を基にソフトウェア上のプログラム補正を行う。また、開発圧子が本研究の測定に適したものか判断し、必要に応じてデザイン修正を繰り返し、最適なものを完成させる。
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