本開発は、物質を押した時の荷重と変位の関係から硬度(N/mm)を算出するアルゴリズムを軟骨硬度計測に応用し、肉眼で判別できない初期軟骨損傷を硬度の変化で検出することを目的とした。 変形性膝関節症に行われる人工膝関節全置換術時の切除関節軟骨を用い、生体外で新規開発軟骨硬度測定器械を用いて軟骨硬度を計測した。手術時に約9mmの厚さの骨軟骨を含む関節面が切除される。荷重部軟骨は損傷しているが、非荷重部は正常に近い状態で温存されている。よって正常から高度損傷まで様々な状態の評価が可能であった。サンプルサイズは50膝で調査を行った。 切除関節表面を18区画に分割、肉眼的軟骨損傷グレードとしてInternational Cartilage Research Society(ICRS)軟骨変性分類を用い、グレード0:正常、グレード1:表層損傷、グレード2:軟骨層1/2までの損傷、グレード3:軟骨層1/2以上の損傷、グレード4:軟骨欠損に分類した。各区画の軟骨硬度を測定した後に、軟骨切片にサフラニンO染色を施し、組織学的軟骨損傷グレードとしてマンキンスコア0から14まで評価を行った。加えて軟骨切片か残存軟骨厚を計測した。 正常軟骨部位の硬度(12.2N/mm)と比較し、軽度軟骨損傷であるICRSグレード1(6.3N/mm)から2(3.8N/mm)では軟骨硬度が軟化し、グレード3(8.9N/mm)から4(29.7N/mm)で硬化に転じた。よってグレード2までの早期変性では、組織学的検査が悪化するほど軟骨硬度も低下することが示された。 一方、早期損傷軟骨の厚さは浮腫状変化により正常の軟骨厚よりも増加し、グレード0が2.4mmに対しグレード1が2.7mmとなり、グーレード2以降は軟骨摩耗により菲薄化することも判明した。今後関節鏡併用下で低侵襲、高精度軟骨硬度測定による初期軟骨損傷の診断が期待される。
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