研究課題/領域番号 |
21K09323
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
由留部 崇 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (10514648)
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研究分担者 |
角谷 賢一朗 神戸大学, 医学研究科, 特命准教授 (10533739)
張 鍾穎 神戸大学, 医学研究科, 特命助教 (00824195)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 椎間板変性 / mTOR / オートファジー / 脊椎 / 整形外科 |
研究実績の概要 |
我々の過去の細胞実験からmTORは細胞に必須のシグナル伝達経路である一方、mTOR複合体1(mTORC1)の選択的な抑制が椎間板変性抑止作用を示す可能性が示唆された。そのため本研究ではラット椎間板変性モデルに対してmTORC1のみを抑制する遺伝子・薬物治療を行い、椎間板変性抑止効果の有無について検討を行った。 まずはmTORC1の選択的な抑制の確立を目指し、ラット椎間板細胞においてmTORC1の構成体であるRaptorへRNA干渉を行う予備実験を試みたところ、Raptorのタンパク発現は50.1%-60.3%のノックダウンを示した。そこでより高精度で特定遺伝子の完全な排除が可能となるCRISPR-Cas9システムの導入を計画し、ヒト脊椎手術で採取した椎間板細胞に発現するRAPTORを標的としてCRISPR-Cas9システムを用いたところ、安定して80%以上のRAPTORタンパク質の発現抑制が得られた。CRISPR-Cas9システムによってRAPTORのタンパク発現がノックアウトされた細胞では顕著なオートファジーの亢進が認められ、mTORシグナル経路の選択的な抑制の達成が確認できた。現在、CRISPR-Cas9システムによるmTORC1の選択的な抑制がアポトーシス細胞死やセネッセンス細胞老化へ及ぼす影響について検討中である。 並行してラット椎間板細胞に対するmTORC1阻害剤テムシロリムスを用いた予備実験を行い、mTORシグナル経路の有効な阻害が確認できた。ラット椎間板変性モデルの作成・確立も進んでおり、現在、Raptorを標的としたRNA干渉のためのsiRNAならびにテムシロリムスの椎間板内局所投与を行う動物実験を実施中である。 以上の結果を受け、①薬剤、②RNA干渉、③CRIPSR-Cas9を用いた椎間板細胞・動物実験をさらに進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では簡便で安定した成績が得られるsiRNAを用いたRNA干渉によるmTORシグナル経路のノックダウンを計画していたが、より高精度で特定遺伝子の完全な排除が可能となるCRISPR-Cas9システムによるmTORシグナル経路のノックアウトの導入を検討しており、細胞を用いた予備実験を行ったために動物実験の進捗に遅れが出ている。しかしながらヒト脊椎手術で採取した椎間板細胞においてCRISPR-Cas9システムによるmTORC1構成体RAPTORの80%以上のノックアウト(RNA干渉では50.1%-60.3%のノックダウンであった)が達成されつつあり、今後、CRISPR-Cas9システムを用いた動物実験を精力的に実施していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
我々の研究室ではヒト・ラット脊椎椎間板細胞のmTORシグナル経路に対する①テムシロリムスなどの阻害剤を用いた制御ならびに②siRNAを用いたRNA干渉による制御を既に確立しており、今回、新たに③CRISPR-Cas9システムを用いた高精度の制御法が確立できつつある。今後、①薬剤、②RNA干渉、③CRIPSR-Cas9をラット椎間板変性モデルへ導入することでmTORC1の選択的な抑制による椎間板変性抑止効果の有効性・類似性・相違点の比較検討を計画しており、現在、実施中である。本研究からmTORシグナル経路の詳細な機能解析が達成できれば、腰痛や神経障害などを生じる脊椎疾患の主要な危険因子である椎間板変性への細胞生物学的な治療介入の可能性が一層進むものと期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究の進捗状況に応じ、少額であるが未使用額が発生した。 (使用計画)次年度交付分と合算して細胞・動物実験の消耗品に使用し、当初の計画通りに研究を遂行する予定である。
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