研究実績の概要 |
近年、二成分制御系(two-component regulatory system: TCS)と呼ばれる細菌の情報伝達システムに注目が集まっている。TCS はヒトの細胞にはないため、その阻害薬のヒトへの副反応は少なく、また既存薬と異なる作用で病原菌に働くため、MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)などの多剤耐性菌に有効に働く次世代型抗菌薬として期待されている。 TCS 阻害薬は、細菌の病原性遺伝子の発現を抑制する病原性抑制剤として働き、治療に難渋している細菌バイオフィルムによる人工関節感染の予防または治療薬として非常に有力ではないかと期待される。 MRSAバイオフィルムをインプラント(チタン合金)上に形成させ、このバイオフィルムに対して4種類の TCS 阻害薬、すなわちヒスチジンキナーゼ阻害薬であるThiazolidinone 誘導体、Walkmaychin B, Signermycin B, および Walrycin BのMRSAバイオフィルムの形成を阻害効果を予備的に検討した。その結果、WalrycinBが最もバイオフィルム形成阻害効果が強いことが明らかになった。 in vitro での結果を踏まえて、このバイオフィルム形成阻害効果が in vivo でも発揮されるか調べる必要があるため、新たな動物実験モデルの作製に着手している。ラット皮下にチタン合金を埋設し、この表面上にルシフェラーゼ遺伝子を導入した黄色ブドウ球菌を感染させ、in vivo 蛍光・発光システム(IVIS)を使用して経時的にバイオフィルム形成を観察する実験系である。現在、実験系の確立に向けて研究中である。
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