研究課題
希少がんに分類される滑膜肉腫はAYA世代に発症ピークを持つ骨軟部腫瘍の一種である。高頻度に肺転移を生じ、初診時に肺転移が認められた場合の5年生存率はほぼゼロである。そのため、患者予後の改善には転移の抑制、転位が生じた後にも有効な治療法の確立が喫緊の課題であると考えられているが、現在までに臨床応用された転移に対する治療法はほとんど無い。これに対して、本研究ではTwist1およびMICA/Bに着目して、転位促進環境下における分子挙動を詳細に観察した。薬剤スクリーニングの結果、低用量HDAC阻害剤がMICA/Bの発現を強く回復し、イリノテカンの代謝産物SN38がTwist1の発現を抑制することをこれまでに示している。転移巣を模倣するスフェロイド形態に於いて、Twist1を発現している細胞では強い薬剤耐性が顕在化してHDAC阻害剤の効果が強く制限されるが、SN38と併用してTwist1の発現を抑制するとHDAC阻害剤の効能は回復することを見出した。また、細胞によっては低用量HDAC阻害剤とSN38を併用すると相乗効果で強力な細胞死を誘導することも見出した。低用量HDAC阻害剤とSN38の併用は1)薬剤による直接的で強力な細胞死誘導、2)細胞死抵抗性の細胞ではMICA/Bの発現が誘導され、NK細胞による間接的な細胞死誘導、の2経路で細胞死を誘導することが期待される。特にスフェロイド形態でMICA/Bの誘導可能な薬剤の発見は、転位治療の福音になると期待される。次のステップとして、Twist1の下流で調節される分子として見出したABCB7のフェロトーシスへの寄与についての解析に着手しており、滑膜肉腫における薬剤耐性メカニズムについて、更に掘り下げて新規の治療方策への足掛かりを構築する。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍で実験機材、試薬等の入手に時間がかかる場合も少なくないが、概ね研究は順調に推移している。
現在までに低用量HDAC阻害剤とSN38の併用による細胞死誘導効果を複数の滑膜肉腫細胞株でスクリーニングし、直接的、間接的に細胞死を誘導する分子メカニズムを明らかにした。現在、これらのデータをまとめた論文を投稿、リバイス作業中であり2022年中の出版を見込んでいる。ここまでの研究過程で、Twist1の下流で調節される薬剤耐性に関与しうる分子としてABCトランスポーターの一つ、ABCB7を同定している。また、網羅的遺伝子発現スクリーニングから、SLC7A8を同定している。これらの分子は新規の細胞死形態の一つフェロトーシスに関与する可能性を見出しており、現在、ABCB7の発現分布、過剰発現やノックダウンによるフェロトーシス経路における寄与度などを掘り下げて解析を進めている。研究計画に沿って今後も研究を推進する。
コロナ禍により購入予定の器材、試薬の生産状況が安定せず、納期が見込めなかったため購入を先送りするなどしている。2022年度に入って、海外のサプライチェーンも安定してきたので、繰越予算は予定していた購入器材、試薬の購入に当てる。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Frontiers in Oncology
巻: - ページ: -