研究実績の概要 |
去勢抵抗性前立腺癌においてDNA修復遺伝子(BRCA1/2)の機能欠損がある約15%の症例に対して、複数のPARP阻害剤が使用可能となっているが、それ以外の症例に対する新規治療法の開発のため、PARPと合成致死を示す遺伝子を同定し、PARPと同時に阻害することにより相乗効果を示すかを検証した。 前立腺癌細胞株を用いた機能喪失型スクリーニングの結果、LIG1、EDC4、PSMC3IPをPARPと合成致死を示す遺伝子の候補として選定し、個別にsgRNAにより機能抑制を行ったところ、LIG1(DNA ligase I)抑制により最もPARP阻害剤の感受性が増強することが示された。前立腺癌においてLIG1の機能不全を有する症例は公開されているデータによると0-2%のみであるため、同遺伝子の機能不全によりPARP阻害剤単剤で奏効が期待される症例は僅かであると考えられた。 DNA ligase Iを特異的に阻害できる化合物は同定されていないため、DNA ligase family(I,III,IV)を阻害する低分子化合物であるL67,L189を用い、前立腺癌細胞株DU145に対してPARP阻害剤であるオラパリブと併用して細胞増殖抑制作用が増強するかを確認した。L189は全く増殖抑制効果の増強を示さず、L67はわずかに増殖抑制効果を相加的に増強させるものの、相乗効果は示されなかった。DNA ligase IのノックアウトではPARP阻害剤が著効するにも関わらず、阻害剤で相乗効果が示されない理由として、既存の化合物の阻害効率が十分でない可能性が考えられる。今後、DNA ligase 1を特異的かつ高効率に阻害できる化合物を同定することができれば、PARP阻害剤との併用を前提とした新規治療薬となり得る。
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