研究課題
現在まで、アンドロゲン合成酵素を標的とした前立腺癌治療開発が行われてきた。これまでに、副腎や精巣でのアンドロゲン合成に重要なCYP17Aを阻害するアビラテロンが前立腺癌において有効性を示し保険承認されている。しかしながら、前立腺癌細胞における副腎アンドロゲンからのテストステロン/DHT合成を標的とした治療薬の開発は難航している。その理由として、17β-HSDや3β-HSDには複数の遺伝子が存在するため、ひとつの酵素を標的にしても、別のアイソフォームによる補完が行われるため、前立腺癌の治療標的としての有効性が限られる可能性が高い。そこで、本研究では、アンドロゲン合成酵素群の発現制御を標的とすることで、前立腺癌に対する画期的な治療法となることが期待される。また、アンドロゲン合成酵素群の発現制御機構に関するバイオマーカーは、前立腺癌のホルモン療法の有効性を予測する新規診断方法となる可能性が考えられる。各種前立腺癌細胞株において、新規抗アンドロゲン剤を処理、およびARのノックダウンを行った際のアンドロゲン合成酵素の遺伝子群の発現を検討したところ、C4-2細胞において、エンザルタミドやダロルタミド、ARのノックダウンによりHSD3B1の遺伝子発現が誘導されることが分かった。さらに、ダロルタミド耐性C4-2細胞では、HSD3B1の発現上昇を認め、耐性に関与していることが示唆された。そこで、siRNAを用いてHSD3B1の発現を抑制したところ、ダロルタミドへの感受性が増強された。次に、HSD3B1の発現調整因子について検討したところ、C4-2細胞でNR5A2(LRH-1)の発現が認められ、エンザルタミドやダロルタミド、ARのノックダウンによりHSD3B1の遺伝子発現が誘導されることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
現在までに予定している研究について順調に進捗している。研究の進展度としては、おおむね予定していた研究計画の通りに進んでおり、今後も引き続き、当初の予定通り本研究を推進予定である。
今後は、NR5A2の発現とアンドロゲン合成酵素群の発現の関係について、各種前立腺癌細胞株において、NR5A2のノックダウンおよび過剰発現を行い、NR5A2の発現とアンドロゲン合成酵素の遺伝子群の発現およびアンドロゲン合成について検討する予定である。また、ARシグナル阻害によるNR5A2の発現変化とその機序について検討を行う。予備的な検討では転写レベルでのNR5A2の発現誘導を認めており、NR5A2のコピー数解析やプロモーター解析を行いARシグナル阻害によるNR5A2発現誘導機序を明らかにする。さらに、NR5A2を標的とした治療法の開発を目指した検討を行う。まず、NR5A2のノックダウンによる前立腺癌の細胞増殖および腫瘍形成能に対する影響について、in vitroおよびマウスゼノグラフトモデルによる検討を行う。さらに、NR5A2のノックダウンと去勢治療や新規抗アンドロゲン剤との併用による細胞増殖および腫瘍形成能についても同様に検討を行い、治療標的としての有用性を明らかにする。さらに、同様な手法を用いて、NR5A2の発現誘導機序に対する治療標的としての有用性を明らかにする。また、NR5A2およびアンドロゲン合成酵素には機能型遺伝子多型が存在することが知られており、ホルモン療法の有効性と遺伝子多型の関係について検討する。
次年度の実験に必要な物品を購入するため
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Cancer Science
巻: - ページ: -
10.1111/cas.15280
Andrologia
巻: 54 ページ: e14307
10.1111/and.14307