研究課題/領域番号 |
21K09351
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
林 祐太郎 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (40238134)
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研究分担者 |
加藤 大貴 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (00620931)
西尾 英紀 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (10621063)
安井 孝周 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (40326153)
丸山 哲史 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (50305546)
水野 健太郎 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (70448710)
中根 明宏 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (70464568)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 精子幹細胞 / 甲状腺機能 / 精子形成 |
研究実績の概要 |
精巣発育不全症候群(Testicular dysgenesis syndrome:TDS)における造精機能障害の原因の一つに、幼若期の精子幹細胞の分化異常が挙げられる。私たちはTDSを対象に、精子幹細胞の分化状態を反映するバイオマーカーを確立すべく基礎研究を進めてきた。精子幹細胞は周囲環境からシグナルを受けて前駆細胞から分化・増殖するとされているが、その全容は明らかでない。本研究では、TDS患児における精巣機能の指標を確立することを目指し、精子幹細胞の分化過程に甲状腺機能がどう関与するか解明することを目的とした。そこで本研究では、研究Ⅰ:精巣の器官培養系を用いたTSH作用機序の解明、研究Ⅱ:幼若精巣に対するT3/T4作用の解析、研究Ⅲ:甲状腺低下/亢進モデル動物における精巣組織の解析、研究Ⅳ:ヒト停留精巣・遊走精巣における甲状腺機能の検討、の4つを立案した。 本年度は、このうち、研究ⅠおよびⅣについて平行して研究を進めている。研究Ⅰに関しては、出生直後から経時的に採取した正常ラット精巣組織を塊状として器官培養し、2週間以上にわたり継続的に細胞培養することが可能であることを確認した。また、精子形成の進行過程について、同じ日齢の生体由来の正常精巣組織との比較・検討を行った。 研究Ⅳについては、本学内倫理審査委員会の承認のもと、出生時に停留精巣・遊走精巣と診断した症例のうち、先天性甲状腺機能低下症を合併した症例について、血清ホルモン値と組織学的所見の関連について解析を行った。停留精巣・遊走精巣の手術時に行った精巣生検で得られた組織を使用し、生殖細胞の特異的マーカーであるDDX4抗体で免疫染色を行い、精細管あたりの精子形成細胞数をカウントした。先天性甲状腺機能低下症を合併していない症例に比べ、合併症例では有意に精子形成細胞数が増加していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究Ⅰに関しては、生体から採取した精巣組織を器官培養し、精子幹細胞マーカーを用いて細胞数や細胞分化の程度を評価する計画であった。器官培養を行うことは計画どおりであったが、培養した組織中の精子幹細胞を評価すべく行った免疫染色が計画どおりに進行せず、様々な条件を変えながら検討を進めている。また、これまで抗DDX4抗体を用いて幹細胞の評価を行う計画であったが、より厳密なマーカーである、GFRa1、Kit、Ngn3等での評価も必要であると考え、これらの染色条件の検討も進めている。さらに定量的な評価のため、フローサイトメトリーに取り組む予定であったが、手技的な問題から進展が遅れている。また、甲状腺機能の精巣への関与を考えた時に、TSHが直接作用しているのか、T3/T4が作用しているのか、を区別するために精巣組織におけるTSHの局在について免疫染色を行った。複数の抗体で、異なる条件で繰り返し行いTSHの精巣における局在を確認することができたが、これらの予備実験のため、全体の研究計画が遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
精巣の器官培養系を安定して確立できるようにするとともに、引き続き、精子幹細胞のマーカー評価法を確立する。すなわち、免疫染色や、フローサイトメトリーで使用できる特異的抗体や実験条件を確立することを目指したい。また近年、ヒト・げっ歯類におけるsingle-cell RNA解析が進み、細胞分化段階に応じて発現する遺伝子プロファイリングが進められている。これらの知見も参考にしながら、私たちの実験室で行うことができる研究を進めていきたい。フローサイトメトリーの実施に際しては、本学内の共同研究センターや実験施設の技術員や研究者ともミーティングを行い、手技的な問題を克服していきたい。 本年度進めることができなかった研究Ⅱについては器官培養系と評価系の確立をもって進めていく予定であり、研究Ⅲについては本学実験動物研究教育センターの助言を得つつ、動物モデルの作成へ取り組んでいきたいと考えている。また、幼若期の動物個体における血清ホルモン値の測定法についても確立していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
精子幹細胞の分化過程に甲状腺機能がどう関与するかを解明することを目的とした研究であり、精巣の器官培養系や甲状腺疾患モデル動物を用い、精巣構成細胞の形質変化を分子生物学的に解析する実験計画を立案した。計画自体は順調な滑り出しであったがCOVID-19による通常の医療業務が大幅に変更となり、予定していた研究を進めることができなかった。また国際・国内学会出張も計画していたが、出張することもできなかった。このため次年度使用が生じた。研究Ⅰ. 精巣の器官培養系を用いたTSH作用機序の解析 研究Ⅱ. 幼若精巣に対するT3/T4作用の解析を加速させたい。
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