研究課題/領域番号 |
21K09367
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
加藤 繭子 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任講師 (80733857)
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研究分担者 |
五島 悠介 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (00710576)
市川 智彦 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (20241953)
関 直彦 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (50345013)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 尿路上皮癌 / 治療抵抗性 / スーパーエンハンサー / マイクロRNA |
研究実績の概要 |
局所進行による切除不能または転移性尿路上皮癌(腎盂癌・尿管癌・膀胱癌)に対する標準治療として、複数の抗癌剤を組み合わせる多剤併用化学療法が行われているが、次第に治療抵抗性を獲得する。治療抵抗性を獲得した癌細胞に対する有効な治療法は未だ存在しない。治療抵抗性を生じる分子機序を解明することは、新たに効果的な尿路上皮癌治療法を開発する上で重要である。 癌細胞が様々な治療に対して、治療抵抗性を獲得する分子機序の更なる解明は不可欠である。近年、細胞の運命を決定する極めて重要な場面において、ゲノム上で「スーパーエンハンサーと定義される強力な転写制御領域が形成され、細胞の運命を決定する機能性分子を発現誘導するという概念が提唱された。癌細胞が薬剤に暴露された際に、癌細胞は自らの生存を賭けて、スーパーエンハンサーを形成し、薬剤耐性に関与する機能性RNA分子を強力に発現すると考える。 機能性RNA分子の1種であるマイクロRNAは、僅か19~22塩基の1本鎖のRNA分子であり、その機能は、細胞内で遺伝子の発現を負に制御する事である。マイクロRNAの生物学的な特性として、1種類のマイクロRNAは数百から数千の遺伝子発現に関与している。そのため、マイクロRNAの発現異常は、細胞内のRNAネットワークの破綻を引き起こす。マイクロRNAの発現異常は、癌を含む様々なヒト疾患に関与している事が明らかとなっている。癌細胞においては、マイクロRNAの発現異常は、癌の進展・転移・薬剤耐性に関与している事が明らかになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子標的薬であるセツキシマブを暴露した細胞を用いて、免疫沈降法(Chromatin immunoprecipitation: ChIP)と次世代シークエンサーを組み合わせたChIP-sequenceを行い、ゲノム上のSEの検出を行った。ChIPに用いる抗体として、H3K27ACを使用した。その結果、セツキシマブを長期間暴露した細胞に特徴的なスーパーエンハンサー領域を検出することに成功した。 現在までに、ヒト染色体上に68カ所のスーパーエンハンサー領域が存在することが明らかとなった。さらに、これらの領域の存在する機能性RNA分子を探索した結果、131種の機能性RNA分子の存在が明らかとなった。この中には、多数のマイクロRNAが存在していた。マイクロRNAの特徴は、1種類のマイクロRNAが、数百から数千の蛋白コード遺伝子の発現を負に制御していることである。そのため、キーとなるマイクロRNAを起点として、マイクロRNAが制御する薬剤耐性に関わる機能性RNA分子の探索が可能となる。現在、スーパーエンハンサー領域に存在する131種の機能性RNA分子について、尿路上皮癌における発現を確認中である。
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今後の研究の推進方策 |
68カ所のスーパーエンハンサー領域に存在する131種の機能性RNA分子に着目し、以下の解析を計画している。 (1) 131種類の機能性RNA分子について、膀胱癌、腎癌を含め、癌組織における発現を、The Cancer Genome AtlasおよびHuman Protein Atlasを用いて調べる。 (2) 癌組織で発現が変動している機能性RNA分子について、臨床病理学的な解析を行う。 (3) (1)(2)より選択した機能性RNA分子について、薬剤感受性に関与するか、検討を行う。 (4) 選択されたマイクロRNAについては、マイクロRNAが制御する機能性RNAネットワークの探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用する試薬や消耗品のストックがあり、実験経費を節約できたため。今年度は、薬剤耐性に関与する機能性RNAの探索に使用する予定である。
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