研究課題
NanoSuit法は、電子顕微鏡による生試料観察技術である。従来の電子顕微鏡の試料作製では必須であった化学固定や脱水・乾燥といった多段階の前処理を必要としないため、生物試料を生きた状態のまま解析することができる。申請者の研究室は、本法を用いることで生きた精子の形態観察法を確立させている。我々はこれらの観察技術を展開することで、精子の周りを精しょうが覆っている状態を高分解能解析できることに成功した。この精しょうの可視化は精しょうの電子線重合による自立膜形成能に依存すると考えられる。実際、この精しょうの重合膜形成には個人差がみられ、興味深いことに重合膜形成不全を認める症例では精子濃度が有意に低かった。この結果は、重合膜形成法は精しょうの特性のひとつを可視化でき、特に重合膜形成不全が男性不妊症を評価するひとつの指標となる可能性を示唆する。また、申請者らは微量粘度計(microVISC, USA)を用いて精しょう液の粘性を定量的かつ簡便に評価する方法を確立させた。精しょう液は非ニュートン性流体の特性を示し、せん断速度2000(1/s)の条件下において1.917-6.802mPa-sと大きな個人差を認めた。また、この精しょう液の粘性はタンパク質濃度と高い正の相関性を示した(r=0.56)。本研究で明らかとなった精しょうの重合膜形成能や精しょうの粘性の個人差は精巣や前立腺の機能や状態を反映していると考えられることから、精子の質にもまた影響している可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
本研究では精しょうの質に着目した新しい男性不妊症の診断法の探索を目的としており、本年度は電子線重合やプラズマ重合による精しょうの分子重合膜形成法や微量粘度計を用いた精しょうの粘性の簡便かつ定量的な評価法を確立させた。さらに、それらの精しょうの特性には大きな個人差があることを明らかにできた。それゆえ、本研究の進捗状況はおおむね順調であると考えている。
症例数を増やし、精しょう液の分子重合膜形成能や粘性と精子濃度や運動率の関連性を多変量解析などを用いて詳細に調べる。また、この新しい精しょうの特性は精巣および前立腺の機能や状態を反映している可能性があることから、ホルモン値や精索静脈瘤の有無、そして体外受精などの成績との関連性を明らかにする。
研究の展開により初年度に購入を予定していた支度を次年度以降に購入することになったため繰越金が生じた。
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Microscopy (Oxf)
巻: 71 ページ: 1-12
10.1093/jmicro/dfab042