研究課題/領域番号 |
21K09376
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
丸山 哲史 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (50305546)
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研究分担者 |
林 祐太郎 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (40238134)
安井 孝周 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (40326153)
水野 健太郎 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (70448710)
中根 明宏 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (70464568)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 膀胱尿管逆流 / 逆流防止術 / 平滑筋細胞 / ホローファイバー / 伸展刺激 / 細胞工学 / 上皮間葉系誘導 / KIT陽性細胞 |
研究実績の概要 |
膀胱尿管逆流症(VUR)に対する内視鏡的逆流防止術は、尿管口を水流で拡張し壁内尿管へ基材を注入する手技(HIT法)の成功率が最も高いが、小児症例では尿管口が狭く正確な場所への注入には熟練を要する。一方、我々は成人症例において尿管内へ尿道膀胱鏡を挿入する手技を用いており、2021年にはその治療成績を報告した(Maruyama et al. BMC Urology 2021)。さらに、本年度は、尿管内では尿管の収縮と流れ方向への波打つような動き(蠕動運動)を認め、特に尿管口から三角部へ向かっての尿管縦走筋の収縮は強く、蠕動運動による尿管トンネルの短縮効果はVUR発生の要因になりうることを確認した。また、このような蠕動運動により注入した基材が移動してしまい、一旦消失したVURの再発をきたした症例を経験した。 蠕動運動は腎盂内にあるペースメーカ細胞による電気的刺激が発端となると言われているが、今回‘尿ボーラス’が輪状筋の収縮により形成され。縦走筋の収縮‘により尿ボーラス’の移動が起こることを確認した。隣接する輪状筋の弛緩タイミングをカハール細胞が調整することで、尿流に方向性が生じる可能性が示唆される。以上から、電気的刺激に対する反応性および共同性を補強した平滑筋細胞を空間的に適切な方向性を形成するように、3D的手技を用いて輪状筋および縦走筋に移植することを試みた。 実際の臨床応用にあたっては、手術を施行する際に用いる注入基材としては単なる物質でなく、尿管蠕動運動をコントロールすることが可能な培養細胞を用いることにより、VUR治癒効率の改善及び長期効果の改善が期待される。また、その際には近年隆盛をみるロボット支援手技を応用することでさらに精緻な手技となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二年度として、力学的強度と方向性を持った平滑筋細胞の培養と機能強化を試みた。具体的には、以下の二項目となる。1)流れ刺激による培養細胞形態変化の検討。私たちはホローファイバーシステムを用いて平滑筋細胞と尿路上皮細胞とを流体下で共培養する手法により、力学的な強度と方向性を持つ尿路組織を作製してきた。ホローファイバーシステムは、中空糸周囲空間(extra capillary space/ ECS)に大量の細胞を培養することを目的に開発された細胞連続培養装置である。中空糸周囲空間(extra capillary space/ ECS)に細胞を培養した。中空糸の外径は200-630μm、膜厚は8-150μmとなる。透析面積は123-2200cm2, ECS 1.4-12mlである。中空糸は高い物質交換特性を持ち、細胞に養分と酸素を供給し、老廃物(アンモニア、乳酸)を除去する。ポンプを用いて培養液を環流させ、自動的に栄養を供給し老廃物を除去した。このシステムを用いて尿路上皮および平滑筋細胞に対して、経時的に細胞数の算定および位相差顕微鏡での形態観察を行った。間葉系細胞のマーカーであるビメンチンの分布を検討した結果、特に、流れ刺激により上皮細胞は上皮間葉誘導を来たし、平滑筋およびへと再分化する可能性が示唆された。2)伸展および電気刺激最適条件の検討。細胞伸展装置を用いて培養液に一定方向の周期的に強度が変動する電場をかけることで、誘導された平滑筋の配列に規則性があらわれることを確認した。周期が短いと方向性の顕在が明らかではなかったことから、本年度はさまざまに周期を変調することで、細胞配列に最適な条件を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて検討した。また、同時に細胞間接着強度に対する条件を検討し、電気的共同性がありながら実臨床に応用可能な強度を持つ平滑筋組織構造を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
1)サイトカイン刺激によるKit陽性間質細胞の誘導。培養した平滑筋細胞に対してKitリガンドであるStem Cell Factor (SCF)を加えることで、Kit陽性間質細胞(カハール細胞)をこのシステム内に誘導する。平滑筋細胞層が組織全体としても統一性ある運動(いわゆる蠕動運動)をすることを電気生理学的および薬理学的に確認する。2)精緻で3D的な注入による方向性と共同的性を持つ平滑筋細胞層の作成。尿管口を切開することでVURを作成したVURラットモデル用いる。注入の際には電気刺激を併用することで方向性を保つこと、尿移送が効率的であることを確認する。Kit陽性間質細胞を追加注入することで共同性が獲得されることを確認する。3)ES細胞への刺激因子付加による平滑筋細胞系確立の試み。ES細胞をレチノイン酸または成長因子(SHHおよびDKK1)を付加した条件で培養する。液中でhanging drop法を用いembryoid body(胚様体:EB)を形成させ分化させる。5日後にEBを再度ディッシュに付着させて分化を進め、時間の経過とともに平滑筋細胞のマーカーであるミオシン重鎖(SM1,SM2)を発現した細胞群を回収する。これら細胞群を3D培養し、αアクチン、カルデスモンの発現およびdense bodyの形成など平滑筋細胞としての形態的特徴を評価する。以上を施行するために、重層的な研究体制を構成することで組織の安定化を図る。ホローファイバーシステム作製、マトリックス作製、動物実験(ラット)・細胞培養・遺伝子発現解析などそれぞれの技術に習熟した研究者の協力のもとに実験を遂行する。効率的に研究を進めるため研究方法ごとに研究者を分担する。
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次年度使用額が生じた理由 |
膀胱尿管逆流症に対する治療法の開発のための基礎研究である。伸展・電気刺激とサイトカイン刺激により平滑筋細胞間の力学的および電気学的接着を強化する。加えて、間質細胞を分化誘導することで、自己調節能力を有し蠕動運動が可能な細胞群を作製する。これらの機能的細胞群を尿管壁へ注入することで尿流通過性を亢進し、逆流防止機構の増強を目指す。計画自体は順調な滑り出しであったがCOVID-19による通常の医療業務が大幅に変更となり、予定してていた研究を進めることができなかった。また国際・国内学会出張も計画していたが、出張することもできなかった。このため次年度使用が生じた。 1)力学的強度と方向性を持った平滑筋細胞の培養 2) 2)精緻で3D的な注入による方向性と共同的性を持つ平滑筋細胞層の作成を加速させたい。
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