研究課題
本年度は尿管トンネル内での尿管壁の生理的動き(蠕動運動)を詳細に検討した。尿管壁内腔の収縮は下流方向に次々と一定の間隔を保ち連動しながら派生し、流れ方向への統一的な波打つ動きであることを確認した。特に尿管口近傍での縦走筋の収縮は強く、蠕動運動による「尿管トンネルの短縮効果」は膀胱尿管逆流(VUR)発生の要因になりうることが示唆された。尿ボーラスが輪状筋の収縮により形成され、縦走筋の収縮により尿ボーラスの移動が起こることを確認した。蠕動運動は腎盂内にあるペースメーカ細胞による電気的刺激が発端となると言われている。下部尿管においても同様なメカニズムによりペースメーカ機能を持つカハール細胞が隣接する輪状筋相互の弛緩タイミングを調整される、尿流に方向性が生じていることが示唆された。以上の所見に基づき、電気的刺激を用いて共同性を補強した平滑筋細胞を、3D的手技を用いて空間的な方向性を形成するように移植することを試みた。移植細胞の準備として、ホローファイバーシステムを用いて管腔組織を作成し、電気刺激とサイトカイン刺激により細胞間接着を強化するとともに間質細胞を分化誘導することを試みた。作成したシステムに律動的な電気刺激を加えたことで平滑筋組織に方向性をもった空間的配置が確立され、電気的結合が強化されたことが示唆された。さらに、サイトカイン刺激によりKit陽性間質細胞がこのシステム内に誘導され、平滑筋組織に自動能がもたらされる可能性が示唆された。また、上皮細胞は電気力学的な刺激により上皮間葉(EMT)誘導を来たし平滑筋へと再分化し、その過程を免疫組織学的に追跡した。上皮系細胞のマーカーであるサイトケラチンと間葉系細胞のマーカーであるビメンチンの分布を検討した。さらに、アクチンミクロフィラメントやギャップジャンクションの構造を電子顕微鏡で確認した。
3: やや遅れている
COVID-19 パンデミックによる社会情勢の未曾有の変化により、愛知県では令和2年4月10日~5月26日、および令和2年8月6日~8月24日の2回にわたり非常事態宣言が発出された。その後、パンデミックは沈静化傾向にあったが、令和5年度に置いても散発的なアウトブレークがあったことから引き続き厳戒体制をとることになった。特に、筆頭研究者が主として勤務する名古屋市立東部医療センターは、愛知県指定の第二種感染症指定医療機関として感染症病床を有し、また発熱患者等が診療・検査を受けられる体制としての「診療・検査機関」に指定されている。更に、かかりつけ医を持たず、受診先に迷う方々に対しては、保健所に設置された「受診・相談センター」から指定をうけた、「電話相談体制を整備した医療機関」に選定された。これらに基づく受け入れ態勢準備、来院者に対する診療・特殊検査に従事した。一方、発熱者が一般の診療機関で敬遠される傾向にあり、「救命救急センター」「地域医療支援病院」としての責務上、業務量の増加が著しかった。研究環境全般の劣化も大きな要因となった。いわゆる3密状態での研究活動が不可能になった。研究スペースの確保、換気状態の改善などに時間を要した。物流の全般的な停滞により、研究資材の搬入が計画通りに行かなかった。国内外の研究会および学会の延期などにより、公的な発表機会が失われ研究結果についての十分な検討が困難であった。
重層的な研究体制を構成することで組織の安定化を図る。ホローファイバーシステム作製、マトリックス作製、動物実験(ラット)・細胞培養・遺伝子発現解析などそれぞれの技術に習熟した研究者の協力のもとに実験を遂行する。効率的に研究を進めるため研究方法ごとに研究者を分担する。実際の臨床応用においては機能を持つ細胞群が多量に必要で、プロセスの更なる効率化が課題である。尿路上皮や平滑筋の幹細胞が利用できれば、未分化状態を維持したままの分裂増殖により、大きく欠損した尿路を補うのに十分な量の新しい細胞群を得ることが可能である。出発点としてES細胞などを用いればより非侵襲的な方法となる。ES細胞由来の細胞群を基に尿路上皮細胞、平滑筋細胞また間葉細胞を得ることを検討する。伸展及び電気刺激をホローファイバーシステムに負荷することで蠕動運動機能を持つように分化した細胞群からなる組織を一旦細胞レベルに分散させることで、注入療法に利用な可能な細胞材料とする。実際の臨床応用にあたっては、尿管蠕動運動をコントロールすることが可能なこれら培養細胞を注入基材として用いることにより、VUR治癒効率の改善及び長期効果の改善が期待される。まその際には近年隆盛をみるロボット支援手技を応用することでさらに精緻な手技となることが期待される。
COVID-19のパンデミックにより通常の医療業務かの大幅な変更が必須となり、予定していた研究を充分に進めることは困難であった。このため次年度使用が生じた。ホローファイバーシステム用いた尿路上皮細胞、平滑筋細胞及び間葉系細胞の効率的な培養を行い、さらに電気刺激による細胞接着強度の増加を目指す。さらにシステムを改善し、サイトカイン刺激やES細胞への遺伝子導入につなげてゆく予定である。
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