研究課題
前立腺がん細胞が周囲の間質細胞と接触すると、どのようにがん細胞の振舞いが変化するのかという点に着目し、間質細胞との細胞間接触によってがん細胞で発現が増加する遺伝子として、抗腫瘍作用を有する細胞膜裏打タンパク質Stomatin(ストマチン)を同定した。本研究の目的は、ストマチンの抗腫瘍作用の分子機構ならびにその発現制御機構、さらに、ヒト前立腺がん組織でのストマチン発現の病理学的意義を検討することである。ストマチンの発現制御機構に関して、がん細胞での遺伝子発現プロファイルとsiRNAを用いたKDの研究から、前立腺がん細胞にはEphrinA5とその受容体EPHA3/7が特異的に発現しており、前立腺がん細胞間でのEphrinA5とEPHA3/7の結合により生じる細胞内シグナル伝達がストマチンの発現を抑制していることを見出した。逆に、前立腺がん細胞間に間質細胞が割入ってこの結合を阻害すると、ストマチンの発現は増加する。GABA作動性介在ニューロンの研究から、NCAMがEPHA3の活性を促進するという知見がある(J Biol Chem 291, 26262-26272, 2016)。そのため、LNCaP細胞においてNCAM familyの発現を検討したところ、NCAM2がLNCaP細胞に高発現していることが明らかになった。さらに、NCAM2のKDによって、ストマチンの発現上昇が観察されたことから、EphrinA5-EPHA3/7と共にNCAM2がストマチンの発現制御に関与していることが示唆された。加えて、ドミナントネガティブ型となる細胞内ドメインを欠失させたEPHA3変異体を作成し、LNCaP細胞に発現させたところ、ストマチンの発現上昇が観察された。よって、EPHA3から伝達される未同定の細胞内シグナルによって、ストマチンの発現が抑制されていることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
ストマチンの発現制御機構において、NCAM2の関与が明らかになったこと、またEPHA3変異体を用いた実験からEPHA3から伝達される細胞内シグナルの関与が示唆された点を考慮して、上記の評価となった。
ストマチンの発現制御機構に関して、昨年度の研究からがん細胞間でのEphrinA5-EPHA3/7シグナルのシグナルの下流でJAK-STATシグナルが関与している可能性を明らかになったが、このシグナルを活性化させても、間質細胞との細胞間接触で上昇するストマチンの発現量を完全に模倣できていない。そのため、本年度明らかになった実験結果を統合して、細胞内でどのようなシグナル伝達経路が働いてストマチンの発現制御に拘るのかを今後明らかにする。また、ストマチンのプロモーター領域で推定の結合転写因子をin silicoで探索して、核内からもストマチンの発現制御機構を検討する予定である。
2022年度は動物実験を予定していたが、2023年度に開始予定となった。そのため、2023年度に行う動物実験に必要な動物購入費及び飼育費として使用する予定である。
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Commun Biol.
巻: 5 ページ: 1071
10.1038/s42003-022-04042-z
http://www.shiga-med.ac.jp/~hqbioch2/