研究代表者はこれまでの研究により、代謝型グルタミン酸受容体7型欠損マウス(mGluR7 KO)のオスが、発情させたメスマウスに対して嗅ぎ行動、マウンティング および挿入行動をするにもかかわらず射精にいたらないことを見いだした。この結果はmGluR7 KOが性的なモチベーションを持つにもかかわらず、射精できないことを示唆する。本研究の目的は、mGluR7の射精調節に関与する回路を明らかにし、さらにmGluR7がどのようなメカニズムでその回路を調節しているのかを解明することである。抗mGluR7抗体を用いた免疫標識により、射精中枢が存在する腰・仙髄にmGluR7が存在することをこれまでの研究により見いだしている。この部位に存在するmGluR7が直接射精を調節するかどうかを検証するために、胸髄レベルで脊髄を切断することで脳の影響を除外し、薬剤誘発性射精による射精の頻度および射出量を野生型マウスとmGluR7 KOで比較する実験を計画した。脊髄切断マウスは自力で排尿することができないため、用手的に腹部を圧迫することで排尿を補助する必要がある。mGluR7 KOでは腹部への圧迫に対する勃起反射が亢進していた。また、薬剤誘発射精に対する反応もmGluR7 KOで亢進していた。すなわち切断手術を行っていないmGluR7 KOでは射精ができなくなっていたのにもかかわらず、脊髄切断をすることでmGluR7をノックアウトすることの効果が逆転して、勃起および 射精が亢進した状態になることが明らかになった。この結果は、予想に反するものであるが、そのメカニズムを明らかにできれば、これまであまりわかっていない射精調節のメカニズムの本質に迫れる可能性がある。研究期間の後半はセロトニンやオキシトシンなどの神経線維との関係を中心に解析をすすめたが、評価は困難であった。
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