我々は腸内細菌叢が前立腺癌の進展に与える影響とそのメカニズムに関して予定通りに研究を進めた。まずは、前立腺癌モデルマウスに抗生剤を投与すると癌増殖が抑制され、短鎖脂肪酸を投与することで増殖抑制効果が打ち消される現象から、腸内細菌叢の代謝産物である短鎖脂肪酸が血中IGF-1を増加させることで前立腺癌の増悪因子になることを明らかにした。さらに、高脂肪食摂取マウスにおける腸内細菌叢のディスバイオーシスによる腸管バリア機能の低下が、LPSの体循環への漏出や、ヒスタミンシグナルの活性化による炎症を介した前立腺癌の進行を促進することを明らかにした。 前立腺生検患者152名の生検施行時に採取した便検体を用いた腸内細菌叢解析では、高悪性度前立腺癌患者の腸内細菌叢ではAlistipesやLachnospiraといった短鎖脂肪酸産生菌が有意に増加していることや、腸内細菌叢の構成に基づく独自のスコアリングシステムが高悪性度前立腺癌患者をPSA値より高精度に判別できることを明らかにした。さらに、腸内細菌叢におけるFirmicutesの量は血中総テストステロン値と正の相関を示すことも明らかにした。 これらの動物実験と臨床検体を用いた実験の結果はいずれも、腸内細菌叢が複数のメカニズムで前立腺癌の病態に関与することを示唆していると考え、得られた結果はそれぞれ論文として報告した。 さらに、我々以外のグループからの報告も加えて様々な角度から考察を行ない、総説の執筆と学会発表を通じて腸-前立腺相関の概念や関連するメカニズムを世間に発信した。
|