研究課題
本研究では、High-mobility group box 1 (HMGB1)に関わる分子機構に着目して、妊娠高血圧腎症(PE)に生じる母体の全身臓器と胎盤の血管内皮障害に対するHMGB1の関与の解明を目指し、HMGB1拮抗による新規のPE治療アプローチの探索を目的として検討を進めた。HMGB1は、ストレス負荷を受けた細胞から放出されて組織炎症を誘発するdanger signal蛋白である。アンギオテンシンII(AngII)誘導性PEマウスモデルを用いた検討において、胎盤から放出されたHMGB1が、従来PE発症の主要な要因とされる胎盤絨毛細胞からのsFlt-1産生を増加し、炎症性サイトカインの増加を誘導して母体の全身的症状の原因となることを確認した。細胞培養実験から、HMGB1刺激に対して絨毛細胞が炎症性サイトカインおよびsFlt-1発現を増加させていた。PE妊婦ではHMGB1が妊娠後期に顕著に増加しており、PE胎盤からは絨毛細胞からの核外漏出が生じていた。さらに、胎児発育の標準偏差とHMGB1の濃度には逆相関があり、胎盤機能の障害にHMGB1が直接的な影響を与えていると推定された。HMGB1を拮抗する作用のあるトロンボモジュリン(TM)を、AngII誘導性PEマウスモデルに投与すると、PEにおける高血圧および腎障害の抑制さらには胎児発育の改善に寄与していた。妊婦血清の検討ではTMとHMGB1の濃度比は胎児発育との相関を示していた。以上より、胎盤の機能障害に伴って、絨毛細胞から放出されたHMGB1が母体の臓器障害と胎盤自体の機能障害を増悪させる因子となり、TMはHMGB1の胎盤機能障害を抑制して、PE治療の新たな治療薬候補となりうると考えられた。
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Placenta
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