今回われわれは臨床データを用いて卵巣癌(明細胞癌)における血栓合併症例は、非血栓合併症例と比較して、予後解析の結果、有意に5年生存率が悪いことを明らかにした。この結果は、今後の卵巣癌治療においては非常に重要な意義を持つことを示唆している。卵巣癌患者におけるがん関連血栓症(以下CAT)の頻度は他癌腫と比較しても高いことが知られており、卵巣癌患者での血栓形成に関連するバイオマーカーを特定することは、卵巣癌での血栓形成メカニズムを明らかにし、新たな治療標的の発見にも寄与することが期待される。 卵巣癌でのCATのメカニズムを明らかにすることを目的として血小板凝集塊の測定を行った。この測定は近年開発された高速流体イメージングとインテリジェント血小板凝集塊識別法の統合による血小板凝集塊の技術を用いて行った。血小板凝集塊の値は悪性度での比較を行うと悪性と境界悪性腫瘍で良性腫瘍よりも有意差を持って高いことが示された。また、腫瘍切除前後で比較すると腫瘍切除後に低下し、固形腫瘍自体による血小板活性化の影響が考えられた。このことから固形腫瘍による血小板活性化のメカニズムを探るため、腫瘍凍結検体からのqPCRを行った。研究計画で述べたTFやPAI-1に加え、腫瘍に発現し、CLEC2という血小板の受容体を介して血小板活性化を起こすPodplaninという分子についても測定した。症例数が少ないため有意差を持った結果は出なかったが今後症例数を増やして検討する方針である。また、組織型での差についても現時点では血小板凝集塊の差はなく、症例数をさらに集積して検討する。血栓との関連については血栓発症周辺で血小板凝集塊が高くなっており血小板の活性化自体が血栓の前駆または血栓発症の結果として高値を示している可能性が明らかにされた。
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