研究課題
これまで子宮頸部異形成(CIN)の症例において免疫組織学的にFoxp4が発現しており進行に伴い発現が増強していることから、子宮頸部異形成の発症や進行癌への進展にFoxp4が関与している事が示唆された。またメカニズムについての検討では、子宮頸部異形成の細胞であるW12がFoxp4を発現していることを確認し、異型細胞の扁平上皮分化を抑制しながら、細胞増殖を促進することでCINの進行に寄与していることを明らかにした。更にW12の扁平上皮分化におけるFoxp4が制御する下流遺伝子について検討した結果、Foxp4は転写因子であるELF3、NOTCH3をDown regulationすることで、W12細胞の扁平上皮分化を抑制していることが示唆された。今年度はFoxp4の発現を制御する上流遺伝子を検索し子宮頸部異形成におけるFoxp4制御機構の解明を目指した。Foxp4遺伝子の上流にアンドロゲン受容体(AR)の結合部位が多数存在することが判明し、ARに注目し検討を行った。CINの症例において免疫組織学的にARは正常扁平上皮に弱く発現していた。CIN1-2では発現を認めたが、CIN3ではは減弱していた、扁平上皮癌では発現を認めなかった。W12にARを過剰発現させリガンドであるDHT(Androgen)を添加させたところ細胞増殖が抑制され、細胞分化の形態を呈していた。分子生物学的にはFoxp4の発現は抑制されその下流であるELF3、NOTCH3の発現が上昇していた。以上からARはFoxp4の発現を抑制しELF3、NOTCH3の発現を上昇させることで細胞増殖が抑制され扁平上皮を分化誘導させることが明らかになり、この経路が子宮頸部異形成の進行に伴い、何らかの原因で抑制されており治療標的になることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
実験がほぼ順調に遂行できたこととほぼ予想通りの結果が得られたことが理由である。
(1) これまでに明らかにしたAR-Foxp4-ELF3, NOTCH3の経路を標的にした治療法の確立に向けた基礎的実験を行う。これらの遺伝子発現を制御できるアデノウイルスベクターを構築、又は異型細胞特異的に制御できる中和抗体やドラッグデリバリーシステムを構築する。このシステムを用いて増殖能や分化能及びInvasion assayによる浸潤能や遊走能の変化を評価する。(2) Foxp4経路と子宮頸部異形成、頸がんの原因ウイルスであるHPVとの関連に注目し、子宮頸部でのHPV感染後にFoxp4経路の発現変化が引き起こされると仮定しOncogeneであるE6、E7とFoxp4とのInteractionについて検討を行い、治療戦略である因子を同定する。またHPV感染の免疫応答に関係が深いとされているIFN-rに注目し、IFN-r発現及抑制によるAR-Foxp4-ELF3, NOTCH3経路の変化を検討を行う。さらにHPV感染およびIntegrationの変化についてはSouthern blot法、PCR法を用いて検討する。またこれらの細胞をOrganotypic raft cultures system (Laimins et al., Science, 1992) にて子宮頸部組織を構築し異形成や癌の変化を組織学的に評価する。
令和5年度は実験計画が順調に進んだことにより実験回数が当初計画より少なく済んだため使用金額が計画より少なかった。助成金は先述した令和6年度の実験計画を確実に遂行し有意義な結果を出すために使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Cancer Med.
巻: 12 ページ: 10816-10828
10.1002/cam4.5824.