松果体から分泌され、外界の明暗環境の情報伝達に関わるホルモン、メラトニンは、哺乳類の思春期開始に抑制的な働きを持つと報告されてきたが、このホルモンがどの細胞をターゲットにその抑制作用を示しているのかは明らかでない。本研究では、哺乳類の性成熟に必須の神経ペプチドであるキスペプチンを産生するキスペプチンニューロンに着目し、メラトニンが思春期のラットのキスペプチン発現に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 メスラットに対し生後15日齢から5週齢まで連日メラトニン投与をおこなった。対照群とメラトニン投与群の間で体重変化に違いはなく、メラトニンは全身の成長速度にはほとんど影響しないと考えられた。メスラットにおける思春期開始時期にあたる4週齢、5週齢時点での血中黄体形成ホルモンの測定を行った結果、4週齢では両群ともほとんどの個体が低い値を示した。5週齢では対照群で高い値を示す個体が複数みられたが、メラトニン投与群ではすべての個体が低値を示した。これらの結果より、メラトニン投与によって黄体形成ホルモン分泌を促進する性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌が抑制されたと考えられた。しかしながら、卵巣重量に群間差はみとめられず、両群で成熟卵胞が確認され、組織像に大きな差はみとめられなかった。また、視床下部におけるキスペプチン遺伝子(Kiss1)mRNA発現細胞を可視化し、その数を計数したところ、4週齢、5週齢ともに前腹側室周囲核(AVPV)、弓状核(ARC)どちらの神経核においても対照群とメラトニン投与群の間に有意な差はみとめられなかった。5週齢のAVPVではメラトニン投与群で細胞数が少ない傾向がみられた。これらの結果より、メラトニンがキスペプチン発現を強力に抑制する因子である可能性は低いと考えられた。
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