研究課題
これまでに、細胞の転写因子TEADがHPVゲノムの転写調節領域(LCR)に結合し、転写を活性化することを明らかにしている。本研究では、野生型LCRとTEAD結合配列に変異を導入したLCRに結合する子宮頸がん細胞の核タンパク質をプロテオーム解析によって比較することで、TEADと複合体を形成してLCRに結合する宿主タンパク質を網羅的に調べた。TEAD結合配列への変異導入により、TEADを含む約30種類の宿主タンパク質のLCRへの結合が1/5以下に減少した。その中から、転写活性化能が報告されている炎症性サイトカインS100A9に注目し解析を行った。クロマチン免疫沈降実験及び共免疫沈降実験により、S100A9がLCRに結合すること、S100A9とTEADが複合体を形成することがわかった。子宮頸がん細胞でS100A9をノックダウンするとHPVのがんタンパク質であるE6/E7の発現が減少し、過剰発現させると増加した。子宮頸がん細胞をホルボールエステルで処理すると、S100A9の発現及びLCRへの結合が増加し、LCRからの転写活性が上昇した。S100A9にDNA結合能は知られていないことから、S100A9がTEADを介してLCRに結合し、転写共役因子として転写を活性化すると考えられる。S100A9は、免疫細胞以外では、主にHPVの宿主細胞である表皮角化細胞等の上皮細胞で発現していることから、上皮細胞特異的なHPVの遺伝子発現に関わる宿主因子の一つと推測される。また、S100A9は、細菌やウイルス感染によって発現が誘導され、炎症反応を促進することから、炎症とウイルス発がんを直接結び付ける重要な宿主因子と思われる。
2: おおむね順調に進展している
転写因子TEADと複合体を形成してHPVの転写調節領域(LCR)に結合すると推測される宿主タンパク質を複数同定できた。これらの中から、本年度は炎症性サイトカインであるS100A9に注目して解析を行い、HPVの遺伝子発現における転写共役因子としての働きが明らかとなった。従って、当初の予定通り進展している。
ヒト細胞で発現させ精製したS100A9とTEAD1の組換えタンパク質を用いて、両者が直接結合するか否かを調べる。もし、直接結合した場合は、それぞれの欠失変異体を作成して、結合様式を明らかにする。S100A9の阻害剤として、PaquinimodとTasquinimodが知られている。これらの阻害剤がHPVの遺伝子発現を阻害し、子宮頸がん細胞の増殖を抑制するか調べる。これらの阻害剤は、すでに全身性硬化症や前立腺がん等の治療薬として第II相臨床試験が行われていることから、HPVの遺伝子発現を阻害することが出来れば、子宮頸がんの治療薬として有望である。転写因子TEADと複合体を形成してHPVの転写調節領域(LCR)に結合すると推測される他の宿主タンパク質についても、HPVの遺伝子発現への関与を調べる。
年度末納品等にかかる支払いが、令和4年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和3年度分についてはほぼ使用済みである。
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Cancers (Basel)
巻: 13(18) ページ: 4613
10.3390/cancers13184613