研究課題/領域番号 |
21K09461
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
森 清一郎 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, 主任研究官 (80342898)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | HPV / 子宮頸がん / 転写因子 / 転写共役因子 / 炎症性サイトカイン / ウイルスがん遺伝子 / ウイルス発がん |
研究実績の概要 |
細胞の転写因子TEADは、HPVゲノムの転写調節領域(LCR)に結合し、HPVがん遺伝子の発現を活性化する。本研究では、野生型LCRとTEAD結合配列に変異を導入したLCRに結合する子宮頸がん細胞の核タンパク質をプロテオーム解析によって比較することで、TEADと複合体を形成してLCRに結合する宿主タンパク質を網羅的に調べた。 これまでに、変異型LCRへの結合が野生型LCRに比べ約1/60に減少した炎症性サイトカインS100A9に注目し解析を行った。昨年度は、S100A9がTEADと複合体を形成してLCRに結合し、HPVがん遺伝子のmRNAとタンパク質の発現を増強することを明らかにした。本年度は、S100A9とLCRまたはTEADとの結合様式を、精製したタンパク質等を用いて調べた。また、S100A9の発現が子宮頸がん細胞の増殖と抗がん剤に対する感受性に与える影響を調べた。その結果、S100A9はLCRには結合しないが、TEADと直接結合することがわかった。S100A9をノックダウンすると子宮頸がん細胞の増殖が阻害され、抗がん剤に対する感受性が高まり、過剰発現させると増殖が促進し、抗がん剤に対する感受性が低下した。これらのことから、S100A9はTEADを介してLCRに結合し、転写共役因子としてHPVがん遺伝子の発現を活性化することで、子宮頸がん細胞の増殖と生存を促進することが示唆された。 S100A9は、免疫細胞以外では、主に上皮細胞で発現し、炎症刺激により発現が誘導されることから、上皮細胞特異的なHPV遺伝子発現に関わる宿主因子の一つと推測される。一方、病原細菌や真菌等の感染による子宮頸部の炎症反応が子宮頸がんの発症に寄与することが知られているが、その背後にある分子機構は不明である。S100A9は、炎症とウイルス発がんを直接結び付ける重要な宿主因子と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上皮細胞特異的なHPVがん遺伝子の発現に関わる宿主因子として新たにS100A9を同定し、その子宮頸がん細胞の増殖と生存における機能を明らかにしたことから、おおむね順調に進んでいる。一方で、当初予定していた、HPV遺伝子発現に関わるTEAD共役因子であるVGLL1の子宮頸がん細胞での機能解明については、解析が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
mRNAの発現レベルは、主にRNAの合成と分解の速度によって決まることから、S100A9のノックダウンおよび過剰発現が、HPV がん遺伝子のRNA合成と分解にどう影響するか調べ、S100A9による転写調節機構の詳細を明らかにする。 S100A9とTEADが直接結合することがわかったが、その結合様式の詳細は不明である。両者の欠失変異体等を作成し、結合に必要なドメインを明らかにする。また、in silico解析によって、複合体の立体構造を予測する。得られた結果を基に、統合計算化学システム(MOE)を用いて、両者の結合を阻害する化合物を探索する。 プロテオーム解析で検出された、変異型LCRへの結合が減少した他の宿主タンパク質についても、TEADとの相互作用やHPVの遺伝子発現への関与を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末納品等にかかる支払いが、令和5年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和4年度分についてはほぼ使用済みである。
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